映像の現場で「LANケーブルなんてどれも同じでしょ」という声を、私は何度聞いてきただろうか。
僕の昔やらかした失敗を白状します。もう時効かな。(汗)
大型イベントの配信、本番30分前にNDI映像が途切れ始めたんです。冷や汗どころじゃない。会場は既に満席、クライアントは真っ青。
必死で原因を探したら、LANケーブルがCat5eだったんですよ。NDIには帯域が足りない。自分の知識不足が招いた大失態です。
それから通信規格を猛勉強しました。Cat6aとCat5eの違い、シールドの有無、PoE対応…。現場では必ずスペアのCat6aケーブルを3本持ち歩くようにして。
今では配信システムの設計段階から、通信経路全体を見渡せるようになりました。あの焦りがあったから、技術の奥深さに気づけた。失敗って、本当に最高の教師なんだと思います。
同じ失敗はしないでくださいね。

はじめに
ATEMスイッチャーの導入支援やトレーニングを行う中で、トラブルの原因を探っていくと、驚くほど多くのケースでLANケーブルに行き着く。映像が途切れる、コントロールが効かない、たまにフリーズする——こうした「謎の不具合」の犯人が、実は足元に転がっている数百円のケーブルだったりするのだ。
インターネットで検索すれば、LANケーブルに関する情報は山ほど出てくる。しかし、その多くは一般的なオフィスユースを前提としたもので、映像・放送機器という特殊な環境を考慮していない。さらに厄介なのは、半端な知識に基づいた「迷信」が、まことしやかに広まっていることだ。
「Cat7以上を買っておけば間違いない」 「シールドケーブルのほうが高性能」 「コネクタは金メッキが最強」
これらは本当だろうか? 結論から言えば、半分正しくて、半分間違っている。そして、この「半分」の理解が、現場で致命的なトラブルを引き起こす。
本記事では、映像システムのテクニカルディレクターとして、またATEM認定トレーナーとして、現場で本当に必要なLANケーブルの知識を体系的に解説する。カテゴリーの本当の意味、UTPとSTPの正しい使い分け、コネクタ品質の見極め方、そしてシールドとアースの関係——これらを理解すれば、機材選定の迷いがなくなり、トラブルシューティングの精度も格段に上がるはずだ。

この先の有料部分では、以下の内容を詳しく解説する:

- カテゴリー(Cat5e/6/6A/7/8)の本当の違いと、映像現場での選び方
- UTPとSTPの決定的な違い——なぜ「シールド=高性能」ではないのか
- コネクタの品質を見極める具体的なポイント
- シールドケーブルを使うなら絶対に押さえるべきアース設計
- ATEM環境で実際に起きたトラブル事例と解決策
- 私が現場で使っているケーブル・コネクタの具体的な製品名
LANケーブルの「カテゴリー」という迷宮
まず、最も誤解が多い「カテゴリー」の話から始めよう。
家電量販店に行けば、Cat5e、Cat6、Cat6A、Cat7、Cat8と、さまざまなカテゴリーのケーブルが並んでいる。数字が大きいほど高性能で、値段も高い。だから「とりあえず一番いいやつを買っておけば安心」——そう考える人は多い。
これが最初の迷信だ。
カテゴリーの数字が示しているのは、主に「対応する伝送帯域」と「伝送速度」である。簡単に整理すると以下のようになる:
カテゴリー 伝送帯域 最大伝送速度 最大伝送距離(その速度での) Cat5e 100MHz 1Gbps 100m Cat6 250MHz 1Gbps(10Gbpsは37m) 100m Cat6A 500MHz 10Gbps 100m Cat7 600MHz 10Gbps 100m Cat8 2000MHz 40Gbps 30m
この表を見て「じゃあCat8が最強じゃないか」と思うかもしれない。しかし、ここで重要な事実を伝えておく。
Cat7とCat8は、厳密にはTIA/EIA規格(北米の標準規格)では認定されていない。

Cat7はISO/IEC(国際規格)で定められたもので、コネクタ形状もRJ-45ではなくGG45やTERAが本来の規格だ。市販されている「RJ-45コネクタ付きのCat7ケーブル」は、規格的にはグレーゾーンの製品ということになる。Cat8に至っては、主にデータセンターの短距離接続を想定した規格で、一般的な映像現場で必要になることはまずない。

では、映像制作の現場では何を選ぶべきか?
ATEMスイッチャーをはじめとする多くの映像機器は、1Gbpsのイーサネットで動作する。NDIのフルバンド伝送でも、実用上は1Gbps環境で十分に機能する(NDI|HXならなおさらだ)。つまり、スペック上はCat5eで事足りるのである。
「えっ、Cat5eでいいの?」
そう、スペック上は。だが、ここからが本当に重要な話になる。カテゴリーの数字だけでは見えない、**ケーブルの「物理的な構造」**こそが、映像現場での安定性を左右するのだ。
そして、その構造の違いを理解する鍵が「UTPとSTPの違い」であり、「コネクタの品質」であり、「シールドとアースの関係」なのである。
ここまでが、多くの人が誤解している「カテゴリー神話」の解体だ。次のセクションからは、いよいよ核心に迫っていく。
なぜ「高いケーブルを買ったのに不安定」が起きるのか
私のもとには、こんな相談がよく寄せられる。
「Cat7のシールドケーブルを買ったのに、映像が時々止まるんです」 「高級ケーブルに変えたら、逆にノイズが増えた気がする」 「ネットで評判の良いケーブルなのに、ATEMの接続が不安定で……」
高い金を出して、良いものを買ったはずなのに、なぜ?

この現象には、明確な理由がある。そして、その理由を理解している人は、プロの現場でも驚くほど少ない。
答えを先に言おう。「シールドケーブルは、正しく使わなければ逆効果になる」のだ。
LANケーブルには大きく分けて2種類ある。

- UTP(Unshielded Twisted Pair):シールドなし
- STP(Shielded Twisted Pair):シールドあり
名前だけ見れば、シールドがある方が電磁ノイズに強そうだ。実際、STPケーブルは外部からのノイズを遮断する金属シールドで覆われている。だから「映像機器のようなノイズに敏感な環境では、STPを選ぶべき」と考えるのは、一見すると理にかなっている。
しかし、ここに落とし穴がある。
シールドは、それ単体では機能しない。シールドが効果を発揮するためには、ケーブルの両端で、シールドが確実にアース(グラウンド)に接続されている必要があるのだ。
これが満たされていない場合、どうなるか。
シールドは「ノイズを遮断する壁」ではなく、「ノイズを集めるアンテナ」として機能し始める。つまり、シールドケーブルを不適切に使うと、UTPケーブルよりもノイズに弱くなるという逆転現象が起きる。
そして現実問題として、民生用・業務用を問わず、多くのネットワーク機器のRJ-45ポートは、シールドのアース設計が不完全か、そもそもアースを取る設計になっていない。ATEMスイッチャーも例外ではない。
つまり、こういうことだ。
「Cat7のSTPケーブルを買った」 →「でも機器側のポートがシールドに対応していない」 →「シールドが浮いた状態(アースされていない状態)になる」 →「シールドがアンテナ化してノイズを拾う」 →「UTPより不安定になる」
これが、「高いケーブルを買ったのに不安定」の正体だ。
量販店の店員も、Amazonのレビュアーも、この事実を知らないことが多い。だから「Cat7のシールドケーブルがおすすめです!」という無責任なアドバイスが横行する。
本当に必要なのは、カテゴリーの数字ではない。自分の環境に合った構造のケーブルを、正しく選ぶ知識なのだ。
有料部分では、この問題を解決するための具体的な方法を解説する。どの機器がシールドに対応しているか確認する方法、アースを正しく取るための設計、そして「じゃあ結局、映像現場では何を買えばいいのか」という結論を、製品名を挙げて示していく。
コネクタという「見落とされる急所」
ケーブル本体の話ばかりしてきたが、実はもうひとつ、多くの人が軽視している重要な要素がある。
コネクタ(RJ-45プラグ)の品質だ。
どれだけ優れたケーブルを使っていても、コネクタが粗悪であれば意味がない。これは自作ケーブルに限った話ではない。市販の完成品ケーブルでも、コネクタの品質には天と地ほどの差がある。
私はこれまで、数えきれないほどのトラブルシューティングを行ってきた。その経験から断言できることがある。
「原因不明の接続不良」の半分以上は、コネクタに起因している。
具体的に、どんな問題が起きるのか。
まず、接触不良。コネクタ内部の金属端子がケーブルの芯線にしっかり圧着されていないと、接続が不安定になる。最初は問題なく動いていても、ケーブルを動かしたり、温度変化で金属が膨張収縮したりするうちに、接触が悪くなる。映像が数分おきに途切れる、再起動すると直る、でもまた止まる——こういう「幽霊のような不具合」の正体は、大抵これだ。
次に、クロストーク(漏話)。LANケーブルの内部では、4対8本の芯線が精密なピッチで撚り合わされている。この「撚り」がノイズをキャンセルする仕組みなのだが、コネクタ部分では撚りを解いて端子に接続しなければならない。この「撚り戻し」の長さが長すぎると、そこがノイズの侵入口になる。安価なコネクタや、雑な加工がされた完成品ケーブルでは、この部分が甘いことが多い。
そして、シールドの接続問題。STPケーブルを使う場合、コネクタもシールド対応品(金属シェルのもの)を使い、シールドを確実に接続しなければならない。ところが、市販の「Cat7対応」を謳うケーブルの中には、ケーブル自体はSTPなのにコネクタがシールド非対応、あるいはシールドの接続が不完全なものが少なくない。これでは、前のセクションで説明した「シールドのアンテナ化」が起きる。
さらに言えば、「金メッキだから高品質」という思い込みも危険だ。金メッキは確かに腐食に強いが、メッキの厚さや下地処理によって性能は大きく変わる。薄い金メッキは数回の抜き差しで剥がれることもある。本当に信頼できるコネクタは、メッキの品質だけでなく、端子の形状、ハウジングの精度、ストレインリリーフ(ケーブルの付け根を保護する部分)の設計まで、総合的に作り込まれている。
ケーブルは「線」ではなく「システム」として捉えるべきだ。
ケーブル本体、コネクタ、そして接続先の機器——この3つが適切に組み合わさって初めて、安定した伝送が実現する。どれか1つでも弱点があれば、そこがボトルネックになる。
無料部分の最後に、ここまでの内容を整理しておこう。
まとめ——あなたは「正しい選択」ができるか
ここまで読んでいただいた方は、もうお分かりだろう。
LANケーブル選びは、「カテゴリーの数字が大きいものを買えばいい」という単純な話ではない。むしろ、その単純な思考こそが、現場でのトラブルを招いている。
改めて、本記事で伝えたかったポイントを整理する。
1. カテゴリー神話の崩壊 Cat7やCat8は「最強」ではない。規格の成り立ちを理解すれば、映像現場で本当に必要なカテゴリーが見えてくる。スペック表の数字に踊らされてはいけない。
2. STP=高性能という誤解 シールドケーブルは、正しいアース設計がなければ逆効果になる。「シールドがあるから安心」ではなく、「シールドがあるからこそ注意が必要」なのだ。多くの映像機器は、そもそもシールドを活かす設計になっていない。
3. コネクタという盲点 ケーブル本体ばかりに目が行きがちだが、コネクタの品質が伝送の安定性を大きく左右する。自作であれ完成品であれ、コネクタを軽視した時点で、トラブルの種を抱えていることになる。
これらの知識は、ネットで断片的に拾い集めることも不可能ではない。しかし、情報の海には誤解や迷信も多く混じっている。何が正しくて何が間違っているのか、判断するには相応の経験が必要だ。

有料部分で得られるもの
有料部分では、ここまでの「なぜ」を踏まえた上で、**「では、どうすればいいのか」**を徹底的に解説する。
【カテゴリー選定の実践】
- 映像現場で選ぶべきカテゴリーの最終結論
- 「Cat6Aまでで十分」と言える根拠と、その例外ケース
- NDI、ATEM、Dante——用途別の推奨スペック
【UTP vs STPの判断基準】
- あなたの環境でSTPが必要かどうかを判断するチェックリスト
- STPを使うなら守るべきアース設計の鉄則
- 「迷ったらUTP」と言える理由
【コネクタと加工の実践知識】
- 信頼できるコネクタメーカーと具体的な製品名
- 完成品ケーブルを選ぶときの「ここを見ろ」ポイント
- 自作する場合の正しい加工手順と工具選び
【トラブル事例と解決策】
- ATEMスイッチャー環境で実際に起きた接続トラブル5選
- 原因の切り分け方と、私が現場で使う診断フロー
- 「これを買っておけば間違いない」製品リスト
映像制作の現場において、LANケーブルは「たかがケーブル」ではない。IP伝送が当たり前になった今、それは映像システムの血管であり、神経だ。
ここで正しい知識を身につけるか、それとも迷信に振り回され続けるか。
選ぶのは、あなた自身だ。


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