コリジョン(パケット衝突)の問題について詳しく解説します。ブリッジリンクとLANスイッチがネットワークパフォーマンスをどのように改善するのか、その基本動作とメカニズムを理解しましょう。
ネットワークが「詰まる」本当の理由——映像プロが知っておくべきパケット衝突の正体
あなたの現場で、こんなことが起きていないか?

配信の本番中、突然映像が止まる。
音声が途切れる。
スイッチャーとカメラの間の信号が、理由もわからず不安定になる。
原因を調べると「ネットワークが不安定」とだけ言われる。
でも、それ以上の説明を誰もしてくれない。
機材は最新。ケーブルも交換した。それでも起きる。
その原因の一つが、コリジョン(パケット衝突)だ。
「衝突」は、見えない場所で今も起きている
映像のIP伝送が普及した現場では、ネットワークケーブルの中を1秒間に何千、何万ものデータのかたまり(パケット)が行き交っている。

そのパケットたちが、同じ瞬間に同じ道を走ろうとしたとき——正面衝突が起きる。
衝突したパケットは壊れる。壊れたデータは再送される。再送が重なると、ネットワーク全体の速度が落ちる。映像が止まる。
これがコリジョンの正体だ。
そして厄介なことに、この問題は機材を替えても、ケーブルを変えても、設定を変えても解決しないことがある。なぜなら、問題は「ネットワークの設計思想」そのものにあるからだ。
Ethernetが抱えていた「根本的な矛盾」
現代の映像伝送の基盤となっているEthernetは、もともと複数の機器が一本のケーブルを共有する仕組みとして生まれた。

廊下を複数人が通る場合を想像してほしい。
廊下が一本しかなければ、すれ違いのたびに立ち止まるか、ぶつかるしかない。
ネットワークも同じだ。
送信のタイミングを調整するために、EthernetはCSMA/CDという交通整理のルールを使っていた。
このルールは、よく考えられた仕組みだ。しかし同時に、構造的な限界を抱えていた。
その限界が何で、どんな条件のときに牙を剥くのか——そして現代の映像プロがなぜ今もこの知識を必要とするのか。
有料部分では、具体的な数値と図解で、根本から理解できるように解説する。
この記事を読むと、こうなれる
- 「ネットワークが不安定」という曖昧な言葉に振り回されなくなる
- コリジョンが起きる条件を、自分で判断できるようになる
- ブリッジ、スイッチングハブがなぜ問題を解決するのかを、人に説明できる
- IPカメラ、NDI、SRTなど、映像IP伝送の現場で即使える知識として定着する
この知識は、機材のカタログには書いていない。
でも、現場で差がつくのはこういう部分だ。
ネットワークの「交通ルール」——CSMA/CDの全体像
コリジョンを語るには、まずEthernetが使っていた交通整理のルール、
**CSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access / Collision Detection)**を押さえておく必要がある。
名前は難しく見えるが、やっていることは非常にシンプルだ。
日常の会話に置き換えると、こういうことだ。
会議室の「発言ルール」で理解するCSMA/CD
マイクが1本しかない会議室を想像してほしい。
- まず周りを聞く(Carrier Sense=搬送波感知)
→「今、誰かしゃべっているか?」を確認する。 - 誰も話していなければ、自分が話す(Multiple Access=多重アクセス)
→ 空いていれば、発言を開始する。 - ぶつかったら気づく(Collision Detection=衝突検出)
→ 同時に別の人も話し始めたら、「あ、かぶった」と気づく。 - いったん黙って、時間をずらして言い直す
→ ランダムな時間だけ待って、もう一度話し始める。
これがCSMA/CDの本質だ。シンプルだが、この「待ち時間」こそが、映像伝送の現場で問題になる。
「待ち時間」が積み重なると何が起きるか
衝突が1回発生すると、関係する機器はデータの再送を行う。
この再送の仕組みは**指数バックオフ(Exponential Backoff)**と呼ばれ、
衝突のたびに待機時間が最大で2倍ずつ延びていく設計になっている。
具体的には以下の通りだ。
| 衝突回数 | 最大待機スロット数 | 待機時間の上限(10Mbps時) |
|———-|——————-|————————–|
| 1回目 | 2スロット | 約 0.1ms |
| 2回目 | 4スロット | 約 0.2ms |
| 4回目 | 16スロット | 約 0.8ms |
| 8回目 | 256スロット | 約 13ms |
| 10回目(上限)| 1024スロット | 約 52ms |
| 16回目 | 送信断念(廃棄) | — |
(1スロット=51.2μs、10Mbps Ethernet規格 IEEE 802.3 Section 4.2.3.2.3 より)
映像伝送では、1フレームの遅延が33ms(30fpsの場合)を超えると画が止まって見える。
衝突が8回以上重なった時点で、理論上すでにフレーム落ちのリスクがある。
衝突はどのくらいの頻度で起きるのか

衝突の発生頻度は、ネットワークの利用率(トラフィック負荷)と直結している。
Ethernetの研究では、トラフィック負荷が37%を超えた時点からスループット(実際に通るデータ量)が低下し始めることが示されている。
(出典:Robert Metcalfe & David Boggs, “Ethernet: Distributed Packet Switching for Local Computer Networks”, Communications of the ACM, 1976)
| トラフィック負荷 | 理論スループット | 衝突の影響 |
|—————–|—————-|———–|
| 10%以下 | ほぼ100% | ほぼ発生しない |
| 37%(臨界点) | 約36.8%(最大効率)| 発生し始める |
| 50% | 急落し始める | 顕著に低下 |
| 70%以上 | 事実上通信困難 | 連続的に発生 |
(Ethernetのスループット特性、M/M/1待ち行列モデル近似による計算。Tanenbaum, Computer Networks, 5th Ed. より)
映像のIP伝送では、4K非圧縮信号(SMPTE ST 2110準拠)で約12Gbpsの帯域を使用する。
10GbEのネットワークでこれを流した場合、それだけで帯域の120%を超え、
CSMA/CDが機能するどころか、衝突しかしない状態になる。
現代の高解像度映像伝送において、CSMA/CDが前提の共有型ネットワークは
設計段階で使えないということだ。
では、なぜ現代のネットワークは動いているのか?
答えは、スイッチングハブ(LANスイッチ)の登場と全二重通信の普及にある。
この2つの技術が、コリジョンの問題を構造ごと解決した。
しかしその「解決の仕組み」を知らずに機器を選ぶと、
設計の落とし穴にはまる。
どんな落とし穴で、どう回避するのか——
それは有料部分で、具体的な設計事例とともに解説する。
「知っている」と「使える」は別物だ

ここまで読んで、こう思った人がいるかもしれない。
「スイッチングハブを使えばいいだけじゃないか」
その通りだ。しかし現場ではそれだけでは足りない。
たとえば——
- スイッチングハブを導入しても、設定が半二重(Half Duplex)のままだと衝突は消えない
- 機器の種類によっては、オートネゴシエーションが失敗して意図せず半二重で繋がることがある
- 複数台のスイッチを接続する構成では、スイッチ間のリンクがボトルネックになる
- NDIやSRTなどのプロトコルは、ネットワークの品質に敏感で、
パケットロス率が0.1%を超えると映像品質が目に見えて劣化する
(NDIの推奨ネットワーク要件:パケットロス0.1%未満、遅延10ms未満。NDI SDK Documentation, Vizrt Group より)
これらは、「スイッチングハブを買えば解決」という知識だけでは防げないトラブルだ。
現場で判断できるかどうか——それが差になる

映像のIP伝送は、今や避けて通れない技術になった。
NDI、SRT、SMPTE ST 2110、AVoIP——呼び方は違っても、
すべてのベースにあるのはEthernetの物理的な制約だ。
コリジョンの仕組みを知ることは、単なる歴史の勉強ではない。
なぜスイッチングハブが必要なのか、なぜ全二重が前提なのか、
なぜVLANを切るのか——その「なぜ」が腑に落ちる。
腑に落ちた知識は、現場で応用できる。
応用できる人間は、トラブルが起きる前に手を打てる。
それが、現場で信頼される技術者と、「なんか不安定ですね」と言うだけの人との差だ。
有料パートで解説すること
有料部分では、以下を具体的に解説する。
- ブリッジリンクがコリジョンドメインをどう分割するか(図解付き)
- LANスイッチが「衝突をゼロにする」メカニズムの詳細
- 全二重通信が実現された技術的な背景と条件
- 半二重・全二重の混在環境で起きる具体的なトラブル事例
- NDI/SRT/ST 2110環境での推奨ネットワーク設計の考え方
- 現場チェックリスト:導入前に確認すべき7つのポイント
この記事を読み終えたとき、あなたはネットワーク図を見て、
どこがリスクポイントかを自分の目で見つけられるようになっているはずだ。
メンタルモデル:「昭和の電話交換手」から「自動交換機」へ
昭和の電話は、交換手が人力で回線を繋いでいた。
つながるまで待つしかなく、混んでいれば繋がらない。
スイッチングハブの登場は、この「人力交換手」を「自動交換機」に置き換えた瞬間だ。
仕組みが変わると、問題が構造ごと消える——それを体感するのが有料パートだ。


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