映像現場において、弁当は単なる食事ではない。それはモラルの指標であり、制作会社の品格であり、スタッフへの感謝の表明であり、ADさんからのラブレターでもある。
朝8時入り、撤収は深夜0時。その間、まともに座って食事ができるのは昼と夜の弁当タイムだけ。だから現場の人間は、弁当に対して異様に敏感だ。
「今日の弁当、冷えてる」——士気が3割下がる。
「揚げ物ばっかりだな」——胃もたれの予感に誰もが黙る。
「おっ、今日は鯖の味噌煮だ」——どこからともなく笑顔が生まれる。
かつて、予算の厳しい現場で3日連続コンビニおにぎりが配られたことがあった。誰も文句は言わない。プロだから。でも、4日目に温かい仕出し弁当が届いた時、ベテランの照明さんの目が少し潤んでいたのを、私は見逃さなかった。
逆に、大手代理店の仕事で1個2,000円の高級弁当が出たこともある。美味しかった。でも正直、みんなの感想は「こんなところに金使うなら、機材費に回してくれ」だった。現場の人間が求めているのは贅沢ではない。「あなたたちのことを考えていますよ」という、ささやかなメッセージなのだ。
最高の弁当を知っているかと聞かれたら、私は迷わず答える。真冬の野外ロケで、製作部の若いスタッフが走って買ってきてくれた温かい肉まんだ、と。

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