生放送のカウントダウンほど、時間の流れが歪む瞬間はない。
「本番10秒前」でディレクターの声がインカムに響く。スタジオの空気が一瞬で変わる。カメラマンの背筋が伸び、スイッチャーの指がボタンの上で静止する。音声は最終レベルを確認し、照明は微調整の手を止める。
「5秒前」
この5秒が、なぜか30秒にも感じられる。頭の中では最悪のシナリオが駆け巡る。カメラ1が落ちたら2に切り替え、音声が飛んだらバックアップのワイヤレスへ、テロップが出なかったら手動で——。何十年やっても、この瞬間だけは心臓が跳ねる。指がしびれる。
「4、3、….」
赤いタリーランプが点灯した瞬間、すべてが動き出す。時間は急に加速し、30分の番組が5分のように過ぎていく。
終わった後、「お疲れさまでした」と伝える。その一言で、張り詰めていた糸がふっと緩む。スタッフ同士、目を合わせて小さく頷く。言葉はいらない。全員が同じ「永遠の5秒」を生き延びた戦友なのだ。
「生放送は麻薬だ。一度味わったら抜け出せない」。45年経った今、その言葉の意味が痛いほどわかる。

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