Genlockとタイムコードを正しく理解する
マルチカメラ運用で画が乱れる本当の理由?
なぜ、あなたの現場では切り替え時にノイズが走るのか。(FSを使用しない低遅延の場合)
編集でタイムコードのアドレスが合わないのは(NDF,DF)?
複数台のカメラを使用した収録現場で、こんな経験はないだろうか。
スイッチャーでカメラを切り替えた瞬間、画面に一瞬ノイズが走る。編集室で素材を並べると、2台のカメラの映像がわずかに時間差を持っている。音声と映像がズレて、シンクロさせるのに1時間以上かかる。
これらは全て、同期が取れていないことが原因だ。
ライブコンサート中継などの遅延を嫌う現場ではFS(フレームシンクロナイザー)は使わない。そんな現場ではカメラ段階でフレームを同期させる必要がある。それがGenlock(ジェンロック)である。
映像制作の現場では、「ジェンロック」と「タイムコード」という2つの同期技術が存在する。しかし、この2つを混同している技術者が年々増えている。両者は名前こそ似ているが、役割も仕組みも全く異なる。
この記事では、45年間で300本以上の放送・配信案件に関わってきたテクニカルディレクターである私の経験をもとに、ジェンロックとタイムコードの本質的な違いと、現場で即座に活用できる実践的なノウハウを伝えていく。

同期が取れていない現場で失われるもの
同期の問題は、単なる技術的な不具合ではない。それは現場の生産性と最終成果物のクオリティに直結する。
編集作業において、タイムコードが揃っていない素材を扱う場合、1本の映像作品につき平均で2〜3時間の余計な作業時間が発生する。5カメ体制の場合、この時間は4〜5時間に膨れ上がる。
さらに深刻なのは、ライブスイッチングの現場だ。ジェンロックが取れていないカメラを切り替えると、視聴者の画面には0.5〜1秒程度のノイズや乱れが表示される。配信プラットフォームによっては、この瞬間に視聴者が離脱するリスクが30〜40%上昇するというデータもある。
つまり、同期技術の理解不足は、時間的コストと品質的リスクの両面で現場に損失をもたらしている。
「ジェンロック」と「タイムコード」―似て非なる2つの概念
ここで整理しておこう。
ジェンロックは、ハードウェアレベルでの信号同期技術だ。複数の映像機器が持つ内部クロックを基準信号に合わせ、映像信号のタイミングを物理的に揃える。
タイムコードは、映像・音声データに時間情報を記録する仕組みだ。いわば「時刻の刻印」であり、編集時に異なる素材を正確に並べるための座標軸となる。
両者は「同期」という言葉で括られるが、動作原理も使用目的も全く異なる。この区別を理解していない技術者は、適切な機材選定ができず、現場で無用なトラブルに見舞われることになる。

現場で起きている典型的な3つの誤解
長年、様々な現場でトレーニングを行ってきた中で、繰り返し見られる誤解がある。これらは経験年数に関わらず、ベテランでも陥りやすい認識の歪みだ。
誤解1:「タイムコードを合わせておけば、スイッチングは問題ない」
タイムコードは記録された時間情報であり、リアルタイムの信号タイミングには一切関与しない。タイムコードが完璧に同期していても、ジェンロックが取れていなければ、切り替え時に画面は必ず乱れる。
誤解2:「ジェンロックさえあれば、編集時の同期は自動的に取れる」
ジェンロックは撮影中のハードウェア同期(カメラ、スイッチャーなど)であり、収録されたファイルには何の影響も与えない。ジェンロックを完璧に施した現場で撮影しても、タイムコードを記録していなければ、編集時には手動で素材を並べる作業が発生する。
誤解3:「レックランとフリーランの違いは、単なる設定の問題」
この2つは、収録システム全体の設計思想を左右する選択だ。レックランは記録開始時にタイムコードを0からスタートさせ、フリーランは外部タイムコードに連動して記録する。どちらを選ぶかで、編集ワークフローが180度変わる。

あなたの現場は、どちらのケースに該当するか
同期技術の必要性は、現場の形態によって大きく異なる。自分の業務がどのパターンに当てはまるか、確認してほしい。
パターンA:リアルタイムスイッチング主体の現場
- ライブ配信
- 放送スタジオ収録
- イベント中継
- マルチカメラのリアルタイム演出
このパターンでは、ジェンロックが最優先事項となる。カメラ台数が3台以上になると、ジェンロックなしでのスイッチングは視覚的な破綻を招く確率が90%を超える。(FSを使った遅延がない想定)
パターンB:ポストプロダクション主体の現場
- ドキュメンタリー収録
- インタビュー撮影
- マルチカメラ編集を前提とした企業VP
- 音楽ライブの収録(編集前提)
このパターンでは、タイムコードが作業効率を左右する。5カメ以上の素材を扱う場合、タイムコード同期がないと編集工程で3〜5時間の余計な工数が発生する。
パターンC:両方を併用する現場
- ライブスイッチングと収録を同時に行う案件
- 放送用マスターとアーカイブ素材を同時生成する現場
- リアルタイム配信+後日編集版の制作
このパターンでは、ジェンロックとタイムコードの両方を正しく設計する必要がある。どちらか一方が欠けても、どこかの工程で必ず問題が発生する。
機材選定で見落とされている致命的なポイント
現場で使用する機材を選ぶとき、カタログスペックだけを見て判断していないだろうか。
ジェンロック対応を謳っている機材でも、入力端子がBNCなのか、専用コネクタなのか、HDMIのみなのかで、実際の運用可能性は全く変わる。HDMI接続のみでジェンロックを実現しようとすると、対応機材が限定され、システム設計の自由度が50%以上低下する。
タイムコードについても同様だ。LTCに対応しているのか、VITCのみなのか、内部生成のみなのか。この違いを理解せずに機材を導入すると、現場で「このカメラ、タイムコード入力できないじゃないか」という事態に陥る。
そして最も見落とされがちなのが、音声トラックを利用したタイムコード記録だ。この手法を知っているかどうかで、低予算案件での同期精度が劇的に変わる。
有料部分で解説する実践的ノウハウ
ここまで、ジェンロックとタイムコードの基本的な違いと、現場で起きている典型的な誤解について説明してきた。
しかし、概念を理解しただけでは現場は変わらない。必要なのは、明日から即座に実践できる具体的な手順だ。
有料部分では、以下の内容を詳細に解説する。
実践編で得られる知識
1. ジェンロックの実装手順
- BNC接続による基準信号の分配方法(3台・5台・10台それぞれのケース)
- 同期信号のループスルーとターミネーション処理
- トラブルシューティング:信号が届かない場合の3段階チェック項目
2. タイムコードの実装手順
- LTC/VITC/埋め込みタイムコードの使い分け基準
- レックランとフリーランの設定判断フローチャート
- ワイヤレスタイムコード同期の実践方法
3. 音声トラックを活用した低予算同期術
- オーディオチャンネルにタイムコードを記録する具体的手順
- 対応機材とケーブル接続の実例
- 編集ソフトでの読み取り設定(Premiere Pro / DaVinci Resolve)
4. 機材別設定ガイド
- ATEM Miniシリーズでのジェンロック設定
- SONYカメラ(FX6/FX3等)のタイムコード設定
- Blackmagic Pocket Cinema Camera 6Kでの同期設定
- 各メーカーの端子形状と対応ケーブル一覧
5. 現場設計チェックリスト
- 撮影前に確認すべき12項目のチェックシート
- システム図の描き方と確認ポイント
- 予備機材の選定基準
これらは全て、私が300本以上の案件で実際に使用し、検証してきた実践的な手法だ。理論ではなく、現場で即座に機能する内容に絞り込んでいる。



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