―― 現場を止めない電源戦略の全貌

著者:videolife / onoring 映像制作歴45年。テクニカルディレクター、ATEM認定トレーナー、TriCasterオペレーター。 放送・ライブイベント・IP伝送の現場から、現場で使える知識だけをお届けする。
「バッテリーなんて、充電して使えばいいだけだろう」
その言葉が出た瞬間、私は確信する。この人はまだ、本番中に機材が止まったことがないのだ、と。
2024年の春、ある中継現場でのことだった。 Vマウントバッテリーを4本用意し、ローテーションも組んだ。充電器のランプはすべてグリーン。準備は万全のはずだった。本番が始まって2時間が経過したとき、メインカメラの電源が突然落ちた。バッテリーは「満充電表示」のまま、だった。
原因は単純だ。そのバッテリーは前回のロケからすでに300サイクル以上を消費していた。カタログ上の容量は98Whと表示されていても、実際に使えるエネルギーはその65%前後にまで低下していた。充電器は「充電完了」と嘘をついたのではない。充電器は正直に「フルに充電した」と報告した。ただし、容量が65%に縮んだタンクを、である。
これが、バッテリーという機材の本質だ。

IP伝送と電源は、なぜ切り離せないのか
NDIやSRTを使ったIP伝送環境の構築に携わる人なら、ネットワークスイッチ、PTZカメラ、エンコーダー、そしてモニターまで、すべての機器が「電源があってはじめて動く」ことを痛感しているはずだ。
ところが、システム設計の議論になると、スイッチのポート数やレイテンシーの数値は徹底的に検討されるのに、バッテリーの仕様は「何となく98Whのを何本か持っていく」で終わることが驚くほど多い。

電源の話をすると「消耗品の話でしょ」と笑う人がいる。だが現実は逆だ。バッテリーはIP伝送システム全体の中で、唯一「劣化しながら稼働し続ける」コンポーネントだ。スイッチも、カメラも、エンコーダーも、壊れるまでは設計通りに動く。バッテリーだけが、毎回充放電を繰り返すたびに、静かに、そして確実に性能を落としていく。
2026年、バッテリーをめぐる状況は大きく変わった
機材の話だけではない。2026年1月1日から、国際航空運送協会(IATA)の規則が改訂され、飛行機でのバッテリーの取り扱いルールが変更されている。

ざっくり言えば「機器と一緒に梱包するバッテリーも、今後は充電残量を30%以下にしてから輸送しなければならない」というルールが新たに適用された。ロケ機材を詰め込んだペリカンケースをそのまま預け入れ荷物に突っ込むわけにはいかなくなったのだ。(出典:IATA Dangerous Goods Regulations 67th Edition, 2026 / UN 3481 SoC規定)
この記事で、あなたは何を手に入れるのか
この記事の有料部分には、次のことが書かれている。
バッテリーのマウント規格(VマウントからBマウントまで)が、なぜ今のカメラの消費電力と密接につながっているのかを、電気の基礎から丁寧に説明する。主要ブランドの特徴を数値で比較し、どのような現場にどの製品を選ぶべきかの判断基準を明示する。充電管理・運用ローテーションの具体的な手順を、現場で使えるチェックリスト形式で提供する。そして2026年IATAルールについては、「撮影クルーが飛行機に乗るときに実際に何をすればよいか」を、空港で使える行動手順として整理する。
さらに、次世代バッテリー技術(ナトリウムイオン電池など)が、2030年以降の映像現場をどのように変えるかについても触れる。

「充電して使う」から「戦略的に管理する」へ。このシフトが、プロとしての現場での信頼を守る。
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