IP伝送の帯域設計とビットレート計算が本番で狂う理由
PTZカメラを1台増やしただけで、スイッチが悲鳴を上げた

多カメラのIPライブ制作現場だった。PTZカメラ3台、マルチビューワー1系統、グラフィックス1系統。すべてNDIで、1本の1GbEスイッチにぶら下げていた。事前の見積もりは「1本だいたい100Mbpsくらいだろうから、5本繋いでも500Mbpsで余裕」というものだった。本番中盤、演出判断で4台目のPTZカメラを追加した瞬間、マルチビューワーの映像がコマ落ちし始めた。ケーブルもスイッチも壊れてはいない。ただ、回線が悲鳴を上げていただけだった。
「余裕がある」という感覚は、平均値でしか測っていなかった

Full NDIの公式仕様書は、1080p60の1ストリームが最大150Mbpsのデータレートになりうると明記している(出典:NDI公式ドキュメント「Bandwidth」docs.ndi.video)。同じ資料は同時に「NDIは決定論的ではない(not deterministic)」とも書いている。150Mbpsは上限であって常時ではないが、瞬間的にはそこまで跳ね上がる。5本のFull NDIソースが同時に150Mbpsへ張り付けば、合計は750Mbpsになる。1GbE回線でバースト分の余白を残す運用の目安として、上限の80%=800Mbpsまでを安全容量とする考え方が実務で使われている(出典:JEM Productions「NDI Bandwidth Explained」)。750Mbpsはこの800Mbpsという天井にすでに93.75%まで迫っている計算だ。ここへ音声や監視用の管理トラフィックが乗った瞬間、天井を超える。
帯域設計は、高速道路の車線設計と同じ理屈だ

平均交通量だけを見て車線数を決める道路はない。夕方数分間の最大流入台数を計算し、そこに合わせて車線を用意する。IPの帯域設計も同じで、「平均どのくらい流れるか」ではなく「全ソースが同時に最大値を出したら何Mbpsになるか」を先に計算しておく必要がある。1本ずつは涼しい顔をしていても、全部が同時に鳴った瞬間だけ道は詰まる。
計算式さえ知っていれば、増設のたびに怯える必要はない
この現象は、コーデックごとの実効帯域とプロトコルオーバーヘッドを数値化し、スイッチの安全容量と突き合わせるだけで事前に見抜ける。特別な測定器も、機材の買い替えも要らない。
この記事で手に入るもの
有料部を読み終えると、次の3つが手元に揃う。

- SDI相当レートとSMPTE ST 2110-20の実効帯域を出典付きで並べた計算表
- NDI各方式(Full/HX3/HX2)とJPEG XS圧縮の帯域早見表
- 複数ソース同時運用時の合算帯域を安全容量と比較するチェックシートの作り方
「足りているはず」が本番中に崩れる瞬間を何度も見てきた
見積もりを外す人は、怠けていたわけではない。ただ、平均値だけで計算していただけだ。次にカメラを1台増やす前に、合算の計算式を先に渡しておきたい。


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