IP伝送システムを守る電源設計の基本

質疑応答に入った瞬間だった。登壇者を追っていたPTZカメラの映像が一瞬だけ静止し、次のカット替えで完全にフリーズした。スイッチャーのプレビュー画面には「NDIソースが見つかりません」の表示。
慌ててLANケーブルを抜き差しした。スイッチのポートも確認した。ネットワーク側には、何ひとつ異常が見当たらなかった。
原因は、床にあった電源タップの中に転がっていた。
映像機器のトラブルが起きると、まず疑われるのはネットワークだ。IPアドレスの衝突、スイッチのVLAN設定、帯域の取り合い。だが実際には、電源という「一番地味な土台」が揺らいでいるだけのケースが少なくない。

その根拠は単純な算数にある。日本国内の壁面コンセントの多くは1系統あたり100V・15A、つまり1500VAが上限に設計されている(JIS C 8303に基づく配線器具の一般的な定格)。ここにスイッチャー本体、モニター2台、照明、PoEスイッチをまとめて挿せば、上限は驚くほど早く近づく。しかも機器の電源投入時には定格の数倍の突入電流が瞬間的に流れることがあり、これが重なると、ブレーカーは落ちなくても電圧だけが一瞬沈む。ネットワークは生きたまま、電源だけが震える。それが画面の上では「原因不明の消失」として現れる。
もうひとつ、見落とされやすいのがPoE(Power over Ethernet)の給電予算だ。IEEE 802.3at規格、いわゆるPoE+は、送り出す側のスイッチが最大30Wを供給しても、ケーブルでの損失を見込んで受け取る側の機器に保証されるのは25.5Wまでと定められている(IEEE 802.3-2018規格 Clause 33/145)。NDI対応PTZカメラを1台、また1台と同じスイッチに足していくと、この予算はいつの間にか天井に張り付く。
電源回路は、道路によく似ている。映像信号なら、誰もがバックアップ経路を組んで冗長化を考える。だが電源という同じ一本道に、スイッチャーも照明もモニターも一緒くたに車を走らせている現場を、これまで何度も見てきた。しかも電源の渋滞には、警告灯が点かない。事故——つまりブレーカーが落ちるか、機材が勝手に再起動するか——が起きて初めて、そこに限界があったと分かる。

電源トラブルは、電気工事士の資格がなくても防げる。回路の容量を計算し、機材を系統ごとに分散し、要所にUPS(無停電電源装置)を挟む。この設計には、すでに現場で使える「型」がある。難しい理論の話ではなく、次の本番までに手を動かせる6つの手順に落とし込める。
この記事の続きでは、次のことが手に入る。
- 100V回路の許容量を自分で計算する式と、80%ルールの使い方
- PoEスイッチの給電予算から、安全に増設できるカメラ台数を逆算する方法
- 延長ケーブルの電圧降下を、現場で数値として判定する基準
- UPSと二重電源、系統分散による冗長化の設計パターン
- よくある3つのミスと、意外と起きる3つの珍しいトラブルの正解

この設計を知らないまま次の本番に入れば、同じ現象はまた起きる。原因が分からないまま予備機材だけを増やしても、電源という土台が揺らいでいれば意味がない。ここから先に、現場でそのまま使える計算式と手順を置いておく。


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