延長ケーブルの電圧降下(ボルテージドロップ)設計とIPスイッチのブラウンアウト対策
対象読者:撮影・演出・音響・照明・編集・配信・制作進行に関わり、IP伝送技術に関心を持つすべてのプロフェッショナルへ。
壊れているのは、毎回違う個体だった
野外イベント二日目、本番中継の後半に入った瞬間、ステージから50メートル離れたカメラ位置のIPスイッチが無応答になった。分電盤を確認しに走ったが、ブレーカーは落ちていない。表示ランプは点いたままだった。担当エンジニアはその場で予備機に交換し、放送は事なきを得た。だが翌週、別の会場でも同じことが起きた。今度も本番の後半、今度も離れた位置のスイッチだけが落ちた。壊れているのは、毎回違う個体のスイッチだった。

電流は正常だった。目減りしていたのは電圧のほうだ
スイッチが無応答になった瞬間、電流はブレーカーの遮断閾値を一度も超えていなかった。疑うべきは電流ではなく、電圧だった。延長ケーブルには電気抵抗があり、電流が流れるほど、その抵抗の分だけ先端の電圧が目減りする。銅の体積抵抗率は20℃でおよそ1.68×10⁻⁸Ω・m(電気学会などの物性値便覧に基づく一般値)。断面積0.75平方ミリメートルのケーブルを50メートル延長し、2アンペアの電流を流した場合、往復抵抗は約2.24オーム、電圧降下は往復で約4.48ボルトになる(抵抗率÷断面積×往復距離×電流で算出)。100ボルトに対しておよそ4.5パーセントの目減りだ。日本電気協会の内線規程(JEAC 8001)が目安として示す電圧降下の許容値は、配線のこう長が60メートル以内でおよそ2パーセントとされる。ブレーカーは電流しか監視していないため、この電圧の目減りには何の反応もしない。

あなたの配線が甘かったわけではない
これは、蛇口を全開にしても、細く長いホースの先端では水がちょろちょろとしか出ない現象に近い。分電盤という蛇口は、正常に全開で電気を送り出している。だが細く長い経路を通る間に、圧力にあたる電圧がじわじわと失われていく。ブレーカーという元栓は流量、つまり電流しか見ていないから、蛇口が全開である限り異常を検知しない。先端の機材が黙って落ちるのは、経路そのものの太さと長さが、そこまで電気を届けきれなかっただけのことだ。

答えは、現場に着く前に出せる
この目減りは、勘や経験だけに頼らなくても、配線を敷く前に計算で見積もることができる。ケーブルの太さと長さ、流れる電流さえ分かれば、答えは机の上で出る。手順そのものは難しくない。次の現場で同じ個体が壊れたと勘違いする前に、その計算方法をこの先に置いておく。
この記事で手に入るもの
有料部では、次の4点を具体的な数値とともに手に入れられる。
- ケーブルの太さと長さから電圧降下を計算する手順と、現場でそのまま使える早見表
- 突入電流・ブレーカートリップ・PoE給電ロスとの症状の違いを切り分ける診断フロー
- 電圧降下で機材が黙って再起動する仕組みと、テスターを使った現場での実測方法
- 長距離給電が避けられない現場での、ケーブル選定と電源系統設計への応用手順

この目減りに気づかないまま長距離給電を繰り返せば、本番の後半になるたびに同じ個体のスイッチを疑い、見当違いの機材交換を繰り返すことになる。次の現場でその30分を無駄にしないための計算手順が、このあとにある。


コメント