Art-SyncとsACN Syncで断つ「フレームティアリング」の正体
対象読者:撮影・演出・音響・照明・編集・配信・制作進行に関わり、IP伝送技術に関心を持つすべてのプロフェッショナルへ。
ケーブルも、ノードも、ファームウェアも疑い終えたあとだった
野外音楽フェスの仕込み二日目、ムービングライト48台の制御を8ユニバースから24ユニバースへ増設した直後だった。仕込みチェックでステージ上手から下手へ流れるはずのチェイスを走らせると、光の帯が途中で一瞬遅れて折れ曲がって見えた。LANケーブルを差し替え、ノードを再起動し、フィクスチャのファームウェアまで疑った。数台だけ挙動が古いのではないかと個別に確認までした。だが原因はどの機材にもなかった。ネットワークが、光を合わせるための「せーの」を、誰にも伝えていなかっただけだった。

ユニバースが増えるほど、ズレが「見える」ようになる
Art-NetもsACNも、初期状態ではユニバースごとに独立したUDPパケットとしてデータを送る。DMX512の更新上限は44Hzで、1フレームは約22.7ミリ秒ごとに送出される計算になる(Art-Net 4 Protocol Release V1.4, Document Revision 1.4dp, Artistic Licence Engineering Ltd, Refresh Rate節による)。ところがノードは電源投入直後、規格上「非同期モード」で動作するのが既定だ。受信したArtDmxパケットは「即座に処理し出力する」と仕様書に明記されている(同仕様書 Synchronous Data / ArtSync節による)。ユニバースが2つや3つのうちは気づかない程度のズレでも、24ユニバースまで増えれば、スイッチのポートごとの転送順、ケーブル長の差、ノードごとの処理待ち時間が積み重なり、フィクスチャごとに違う瞬間に光が切り替わる。これが照明制御の現場で「ティアリング(tearing)」と呼ばれる現象だ——異なる出力先が、異なるフレームの内容を同時に映し出している状態を指す(Advatek Lighting社、PixLite Synchronous Mode解説ページによる)。
演奏者の腕は、落ちていなかった

これは、離れた場所にいる複数の演奏者に、譜面を配達員がバラバラのタイミングで届けているようなものだ。演奏者たちは、届いた瞬間にそれぞれ音を出し始めてしまう。指揮者の「せーの」という合図を待たずに。譜面の中身は正しい。演奏者の腕も落ちていない。ただ、全員が同じ瞬間に弓を下ろすための合図そのものが、そもそも存在していなかっただけだ。あなたの照明設計が甘かったわけではない。ネットワークの構造に、最初から「合図」を組み込んでいなかっただけである。
方法は、すでに仕様書の中にある

方法はすでにプロトコルの仕様書に書かれている。Art-NetにはArtSyncという専用のパケットが、sACNにはSynchronization Packetという専用の仕組みが、最初から用意されている。どちらも「届いたらすぐ出力する」というノードの既定の性格に、「合図が来るまで待て」と教え込むための機能だ。使っていないだけで、道具はすでにそこにある。
この記事で手に入るもの
有料部では、次の4点を具体的な数値とともに手に入れられる。
- ArtSyncとsACN Syncそれぞれの仕組みの違いと、現場の機材にどう設定するかの手順
- 同期が外れた瞬間にシステムが自動的にどう振る舞うか、既定の待ち時間と実際の見え方
- バックアップ卓の運用とArtSyncを同時に使うと同期そのものが効かなくなる、見落とされやすい仕様上の落とし穴
- 大規模なLEDウォールや多灯ムービングライト環境に、同期設計を本番運用として組み込むための応用手順

同期が外れてから、Art-Netは4秒、sACNは既定で2.5秒、ノードは自動的に非同期モードへ戻る仕様になっている(各仕様書による、詳細は有料部)。つまりネットワークがほんの一瞬詰まっただけでも、本番中に数秒間だけティアリングが再発する設計上の弱点が、そこには残る。次の現場でその数秒に足をすくわれないための設計手順が、このあとにある。


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