5G SAネットワークスライシングが実現した上り安定率98%の理由
祭り会場の交差点脇、モバイルIP中継機器の画面には「上り38Mbps」の表示が出ていた。本番10分前に計測した数字だ。ところが本番が始まった瞬間、その数字は12Mbpsまで落ち込み、送出映像にブロックノイズが並んだ。キャリアのSIMを差し替え、アンテナの角度を変え、机上で見積もった帯域には最後まで届かなかった。あとになって分かったことだが、疑うべきは電波の強さではなく、その電波を「誰と分け合っているか」だった。

モバイル回線は基本的に「ベストエフォート」という考え方で動いている。同じ基地局の電波を、その場にいる全端末が早い者勝ちで奪い合う設計だ。実際、2022年の博多祇園山笠のテレビ中継では、カメラと中継車をつなぐ回線に5G(NSA方式)を使っていたが、コロナ禍明けで人流が急増したことと、周辺の観客が使う4G回線の混雑の影響を受けて、伝送に遅延が発生している(NTTドコモ「テレビ中継における全国初の取組み」2025年1月14日公開記事による)。原因は電波の弱さではない。NSA(ノンスタンドアローン)方式では5G基地局が4Gの設備を一部共有する構造そのものに、遅延の芽があった。

5G回線の設計は、片側3車線の一般道路に似ている。祭りやスポーツの当日、観客のスマートフォンが車のようにその道路にあふれ、中継用の伝送も同じ車線の中で信号待ちに並ぶ。ネットワークスライシングは、その一般道路の中に中継専用の優先レーンを1本敷く技術だ。周りの車線が何台詰まっていようと、そのレーンだけは走行を保証される。回線の「本数」を何本重ねても、走る道路そのものが渋滞していれば意味がない——スライシングが解決しようとしているのは、まさにこの一点だ。

この技術は、すでに実験室の中の話ではない。中継車を使わない簡易な機材構成でも、地上波放送が求める映像品質を確保できることが実証されており、国内の大規模スポーツイベントの生放送でも実際に使われている。混雑した環境を模したテストでは、ある条件下で上り伝送レートの維持率が数値として大きく変化することも確認されている。この後の有料部で、その具体的な数値と、現場で導入するための手順を明かす。
有料部を読み終えると、次が手元に揃う。
- 5G SA・ネットワークスライシング・セルラーボンディングという3つの技術を、混同せずに使い分けるための整理
- 混雑環境でのテスト実証で得られた、スライシング利用時と未利用時の伝送安定率の実測比較
- 現場でスライシングを導入するための、申込みから本番監視までのステップバイステップ
- 現場でよくある勘違いと、それぞれの正解
- 帯域保証と低遅延保証は別物だという、見落とされやすい盲点

回線の本数を増やす発想のまま次の現場に向かうと、同じ場所で同じように映像が乱れる。原因は電波でも機材でもなく、その回線が「誰の物として確保されているか」という一点にある。次の現場で同じ迷走をしないための整理が、このあとにある。


コメント