撤去の日だった。大道具が壁パネルを外すと、中からLANケーブルが出てきた。角材の手前で、ケーブルは小さなUターンを描いている。折り目には白い筋が入り、被覆が潰れていた。

このケーブルの先には、PTZカメラが1台ぶら下がっていた。公演のあいだ、そのカメラだけが、ときどき画を止めた。カメラは2回交換した。スイッチのポートも替えた。症状は消えなかった。当たり前だ。悪いのはカメラでもスイッチでもない。誰の目にも触れない、壁の中だったのだから。
数字を並べてみよう。

まず、曲げだ。ツイストペアケーブル(UTP)の水平配線には、施工ガイドが示す曲げの下限がある。半径はケーブル外径の4倍である(Black Box、ETC)。外径6.0mmのケーブルなら、半径は4×6.0=24mm。Uターンの直径は2×24=48mmだ。柱の内側が45mmしかない壁なら、48−45=3mm足りない。この6.0mmは試算のために置いた仮の値で、実物は必ず測る必要がある。
次に、熱だ。構造化配線の技術文書TSB-184-Aは、周囲45℃に、PoEの電流と束ねによる上昇15℃を足した60℃を想定している(Belden)。TIA TR-42の文書によれば、UTPの損失は20℃から40℃まで1℃あたり0.4%、40℃から60℃まで1℃あたり0.6%ずつ増える。20℃を基準にすると、60℃での増加は0.4×20+0.6×20=20%だ。

庭の水まきホースを思い浮かべてほしい。ホースを急に折り曲げると、水は細くなる。それだけではない。折り目で水の勢いがはね返り、流れが乱れる。LANケーブルの中を走る信号も同じだ。急な曲げや締め付けのある場所で、信号の一部がはね返る。通電はしているのに、画だけが乱れる理由はここにある。
だから、壁を組んだ大道具さんを責めても、ケーブルを通した技術スタッフを責めても、答えは出ない。ケーブルが通る道を、誰も図面に描いていなかった。それが原因だ。映像側と美術側が顔を合わせて決めるべき「取り合い」が、抜けていた。
方法はある。壁が閉じる前に、ケーブルの通り道を図面に描き、曲げ・力・熱・端子の4つの傷みを数字で見積もる。手順は6つで足りる。
この記事の有料部で手に入るのは、次の4点だ。
- 4つの傷みを、美術の現場でどう測るかを整理した判定表
- 外径から必要な壁の内寸を割り出す寸法表(UTPとシールド付きの2種)
- 給電の等級が上がったとき、同じ経路の発熱が何倍になるかの換算表
- 美術との打ち合わせ15分で、図面に書き込む項目のひな形

壁が閉じてから原因を探す作業は、閉じる前に1枚の図面で防げる。次の現場で同じ事故を起こさないための手順が、このあとにある。


コメント