カラーバーを「映像が来ているかどうかの確認画面」としてだけで眺めていないだろうか。
絵が出た。色もついている。よし、次。
ケーブルを挿した直後の動作としては、それで間違っていない。ただ、そこで切り替えてしまうのは惜しい。あの一枚は色の見本帳として作られたものではないからだ。私はあれを、信号の通り道の健康状態を読み取る検査票だと考えている。

画面の41.7%は、色のバーではない
日本のHD制作で基準になるカラーバーは、電波産業会(ARIB)が2000年12月14日に策定した「ARIB STD-B28 マルチフォーマット・カラーバー」である。画面は上下4段。1080本の走査線で数えると、こう割り振られている。
段 高さの割合 走査線の数
1段目 7/12 630本
2段目 1/12 90本
3段目 1/12 90本
4段目 3/12 270本
計算は1080×7/12=630、1080×1/12=90、1080×3/12=270。出典はARIB STD-B28と、同じ構造を国際向けにまとめたSMPTE RP 219-1:2014のTable C.5だ(SMPTEは米国に本部を置く規格団体)。
誰もが思い浮かべる7色のバーは1段目だけ。残る450本、割合にして41.7%(450÷1080)は別の仕事のために空けてある。画面の4割を割いてまで入れたかったものが、そこにある。
8ビットでは「4」しか差がない線
4段目の右寄りに、黒に埋もれた縦線が1本ある。幅は1920画素のうち約69画素。画面幅の3.6%にすぎない(1920×3/4÷7÷3≒68.6、出典:SMPTE RP 219-1:2014 Table C.2)。
この線は、基準の黒よりさらに2%暗い。10ビットの数値で黒が64、この線が46。差は18。8ビットなら黒16に対して12、差は4しかない(876×0.02≒17.5、219×0.02≒4.4、出典:同Table B.8)。

差が4。設定をひとつ取り違えれば、跡形もなく消える。そして消えたこと自体が、通り道のどこかで何かが起きた証拠になる。
ひとつ問いを置いておく。同じカラーバーを3台のモニターに分配したら、1台だけ黒が灰色に浮いた。疑うべきはモニターか、ケーブルか、送り出しの設定か。画面のどこを見て、どの順で切り分けるか。迷わず答えられるなら、この先は読まなくていい。
基準のおもりを載せて、はかりを確かめる
精肉店のはかりは、重さのわかっている分銅を載せて狂いを確かめる。1kgの分銅で1kgと出れば、そのはかりで量った肉の重さも信用できる。
カラーバーは映像の分銅だ。中身の数値が規格で1つ残らず決まっている信号を入口から流し、出口で測る。同じ数値が出れば、途中の機器は何も壊していない。違う数値が出たら、どの値がどちらへずれたかで、壊れ方の種類まで言い当てられる。
色が合わない、黒が浮く。そのときモニターのつまみへ先に手が伸びるのは、はかりが狂っているのに肉を足したり削ったりするのと同じである。目が悪いわけでも、腕が足りないわけでもない。確かめる順番が逆になっているだけだ。
規格書が自分で「限界」を書いている
もうひとつ、覚えがないだろうか。カラーバーを映して並べたモニターの色を揃えようとしたのに、最後まで揃わなかったこと。

これも腕の問題ではない。SMPTE RP 219-1:2014は第5章で、液晶や有機ELのように画素が固定されたディスプレイの精密な調整は、この文書の対象外だと明記している。カラーバーに任せてよい仕事と、任せてはいけない仕事がある。その線引きを知っていれば、現場で粘るべき場所と、さっさと測定器に渡すべき場所が分かれる。
この記事で手に入るもの
有料部には次の内容を収めた。
- 4段それぞれの寸法と役割。7/12・1/12・1/12・3/12という比率になった理由
- 10ビットと8ビットの基準値一覧と、その値を自分で導く計算式
- 通り道の壊れ方を5種類に分け、カラーバーのどこに症状が出るかを対応させた診断表
- 設定を取り違えたとき信号が何%ずれるかの計算値(明るさの目盛りの取り違え、色の計算式の取り違え)
- よくあるミス4件、珍しいトラブル3件、異常に見えて実は正常な現象3件と、それぞれの正解
- 信号源の選び方から始める7ステップの点検手順
- モニター合わせでカラーバーに任せる範囲と、測定器に渡す範囲
- IP伝送と配信の経路へ当てはめるときの点検箇所
「3台のうち1台だけ黒が浮く」の答えも、その中に書いた。

読み終えたとき、手元には「基準値の表」「症状から原因を引く診断表」「7ステップの点検手順」の3つが残る。次にカラーバーを見たとき、あなたの目は1段目ではなく、下の450本へ先に向かうはずだ。
<ここから有料部>


コメント