ライブ配信が夜になると崩れる本当の理由——NTT東西分断とISP構造を知れば、回線選びは変わる

現場で誰も教えてくれなかった「回線品質の正体」
「スピードテストでは上り100Mbpsが出ているのに、本番の配信になると音声が飛ぶ。」
「東京から大阪に向けてSRTで映像を送ったら、昼間は安定していたのに21時を過ぎた途端にビットレートが3分の1に落ちた。」
この経験に心当たりはないだろうか。
ライブ配信やリモートプロダクションに本格的に取り組み始めたプロなら、一度は直面する壁だ。機材を疑い、設定を見直し、それでも原因がわからない。その正体は、日本固有のインターネット物理インフラの構造にある。

「フレッツは悪い回線」は本当か
日本の固定インターネットは、NTT東日本(東京都を含む17都道府県)とNTT西日本(30府県)が、それぞれ完全に独立したNGN(次世代ネットワーク)を運用している。 (出典:NTT東日本・NTT西日本 各社公式サービスエリア情報)
この2つの網は、直接接続されていない。必ずISP(インターネットサービスプロバイダ)のバックボーンを経由して通信する設計だ。
つまりライブ配信で東京から大阪に映像を送る場合、問題の主因は「NTT回線そのもの」ではなく「どのISPを使っているか」に集約される。
現場で長年言われ続けてきた言葉がある。
「フレッツは悪くない。ISPが全てだ。」
この言葉の意味を、構造レベルで理解しているプロがどれだけいるだろうか。
スピードテストが「嘘をつく」理由
Speed TestサービスはISPが自前で用意した国内キャッシュサーバーとの通信速度を測定するケースが大半だ。これは言うなれば「隣の部屋までの速さ」を測定しているに過ぎない。
ライブ配信で実際に必要なのは、YouTubeやCDN配信サーバーまで途切れなく映像を届け続ける持久力だ。このふたつは、まったく別の指標を測定している。
速度ではなく、RTT(往復遅延)・ジッター(揺らぎ)・パケットロス・経路安定性の4指標こそが、配信回線の本当の評価基準だ。
東西を跨ぐ通信で、何が起きているのか

東京と大阪の光ファイバー上の実測RTT(往復遅延)は、適切に設計されたISPを使えば8〜12ms程度に収まる。 (根拠:光の屈折率を考慮した光ファイバー内の伝搬速度は約200,000km/sであり、東京〜大阪間の直線距離約400kmからRTT理論最小値は約4ms。実際のルーティング処理や中継機器の処理時間が加わり、8〜15msが現実的な値となる。参考:IIJ公開ネットワーク品質レポート)
しかし現実の現場では25ms、30msを超えるケースが報告されている。この差はどこから来るのか。
その答えは、ISPのバックボーン設計にある。そして問題はそれだけではない。ISP接続ポイントの地理的配置、IPv6(IPoE)への移行後も残る構造的問題、「ヘアピンルーティング」と呼ばれる通信経路の迷走——これらが複合的に絡み合って、配信現場を悩ませている。
この記事で得られること

この記事では、45年の映像制作現場で積み上げてきたネットワーク診断の実践知識を、体系的に解説する。
具体的には以下の内容を有料部分で公開する:
- NTT東西の物理インフラ構造と、ISPバックボーンの依存関係を図解で理解する
- 「地雷ISP」を見抜く4つの構造的チェックポイント
- traceroute・mtr・iperf・ping の4コマンドによる、配信前の回線診断の完全手順
- 東京↔大阪間のRTTを判定する具体的な数値基準(理想値・許容値・危険値)
- 冗長化設計の3段階モデルと、それぞれの構成要素の選び方
- 記憶に定着させるためのメンタルモデルと要約
機材選定に時間とお金をかける前に、ネットワークの構造を理解することで、配信トラブルの根本原因を取り除くことができる。

本記事はIP伝送に取り組む映像制作のプロ、特にSRT・NDI・ライブ配信・リモートプロダクションに関わる全ての人に向けて書いた。
有料部分へ続く


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