PoE給電予算の設計とケーブル電圧降下で防ぐ原因不明のリブート

朝9時、都内のホテル宴会場だった。企業の年次総会をライブ配信する現場で、NDIカメラ7台をPoE給電のスイッチ1台にまとめて仕込んでいた。6台目までは何の問題もなく起動した。7台目のケーブルをポートに挿した瞬間、すでに映っていた3台目のカメラの映像がふっと落ちた。ケーブルを挿し直しても直らない。差すポートを変えても同じことが起きる。ネットワークは正常に見えたし、カメラ本体も壊れていなかった。

PoE(Power over Ethernet)でスイッチが供給できる電力には、ポート単位の上限とは別に、スイッチ全体としての上限がある。これを「PoE予算(PoE Power Budget)」と呼ぶ。24ポートのスイッチが1ポートあたり最大30W給電できると仕様書に書かれていても、それは24×30=720Wをスイッチ全体で保証するという意味ではない(出典:Cisco Meraki公式ドキュメント「PoE Support on Cloud-Managed Switching」)。スイッチが公称する総予算は、たいていこの単純計算よりずっと小さい。ポートは7個とも空いていたし、ケーブルもすべて新品だった。空いていたのはポートであって、電力ではなかった。

このすれ違いは、宴会場の共有コンセント盤に似ている。各テーブルのタップには「15A対応」と印字されていても、会場全体を束ねるブレーカーは合計で50Aまでしか流せない。前半のテーブルが静かに電源を使っている間は誰も気づかない。だが終盤、全テーブルが同時に電気ケトルのスイッチを入れた瞬間、ブレーカーは落ちる。落ちたテーブルのタップが壊れていたわけではない。会場全体の合計を、誰も計算していなかっただけだ。PoEスイッチのポートも同じで、1本1本は正常に給電できる設計であっても、スイッチという「会場」の合計を超えた瞬間、どこかのポートが給電を止められる。
有料部を読み終えると、次の三つが手元に残る。
- IEEE 802.3af/at/bt各規格の給電クラス表と、スイッチの予算計算式
- ケーブル長からPoE機器の受電電圧を逆算する計算手順
- PTZカメラ・ワイヤレスマイク充電スタンド・仮設アクセスポイントという、性質の異なる3種の機器がPoE予算を食い合う実例と、その見分け方

7台目のカメラが3台目を道連れにした原因と、次の現場でこれを二度と起こさないための計算手順を、このあとに書いた。
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