映像の現場に45年立ち続けて分かったことがある。ロゴアニメーションやテロップは「画面の中の見え方」だけで語られがちだが、IP伝送が当たり前になった制作現場では「どの段階で映像に乗せるか」という伝送経路上の位置が、見え方そのものを左右する。この記事では、その合成位置と遅延の数値を一つずつ示す。
補足:本記事は「簡易モーショングラフィックス」シリーズの中でも、これまで扱っていなかった「IP伝送環境でのCG合成位置」と「伝送方式別の遅延差」に絞った続編にあたる。キーフレームの基礎やセーフエリア・イージングの数値根拠を先に知りたい場合は、先行する「簡易モーショングラフィックス入門」「セーフエリアとイージング」の各記事を参照してほしい。
配信開始2分後、ロゴだけが一瞬止まって見えた

スポンサー名の入ったロゴアニメーションを、配信の冒頭に毎回同じタイミングで挿入していた。スイッチャーのプレビュー画面では滑らかに動いていた。ところが配信開始から2分後、別回線で見ていたスポンサー担当者から連絡が来た。「ロゴが一瞬止まって見えた」。手元のモニターでは何の異常もない。録画データを後から見返しても、該当箇所に欠落はなかった。原因がカメラやスイッチャーではなく、その間に挟んでいた映像伝送方式の側にあったと分かったのは、配信が終わってログを確認した後だった。
止まって見える理由は「回線が細い」からではない

この症状の原因は、使っていた伝送方式の遅延特性を確認していなかったことにある。映像をネットワーク経由で送る方式にはいくつかの種類があり、それぞれ帯域と遅延の数値が異なる。NDI公式ドキュメントによれば、フルNDIは1080p60で約150Mbpsの帯域を使い、フレーム単位で圧縮を完結させる方式(SpeedHQ)のため、復号待ちがほぼ発生しない(出典:NDI公式「Bandwidth」白書 docs.ndi.video)。一方、同じ画質を低帯域で送るNDI HX2は、1080p60で2〜16Mbpsまで帯域を抑えられる代わりに、長時間の参照フレームを使うHEVC圧縮(long-GOP)を採用しているため、100〜300ミリ秒の遅延が発生する(同出典)。この100〜300ミリ秒を60fpsのフレーム周期16.67ミリ秒(1秒÷60で算出)で割ると、約6〜18フレーム分の遅れに相当する。スポンサー担当者が見ていた回線は、まさにこの帯域節約型の方式を経由していた。
遅延は「回線の細さ」ではなく「荷物の運び方」の違い

このズレの話は、同じ荷物を運ぶときに使う配送手段の違いに似ている。チャーター便(フルNDI相当)はそのまま1つの荷物を直送するため積み下ろしの待ち時間がない。一方、混載便(HX2相当)は他の荷物と一緒に積み合わせるために仕分けと待機の工程が増える。荷物自体の重さ(画質)が同じでも、運び方の違いがそのまま到着までの時間差になる。回線が細いから遅いのではなく、仕分け工程(圧縮方式)が多いから遅い。この区別を知らないと、対策の方向を誤る。
数値化された基準に沿えば、構造的に解決できる
ロゴやテロップが映像本体とズレて見える問題は、感覚で機材を入れ替えて解決するものではない。伝送方式ごとの帯域と遅延の数値、そしてスイッチャー側で何層のグラフィックを重ねているかを数値で把握すれば、再現性のある形で原因を特定できる。確認すべき項目は多くないが、この基準を知っているかどうかで、本番中に「何が起きているか分からない」状態になるかどうかが変わる。
この記事で手に入るもの

有料部を読み終えると、次の3点が手元に揃う。
- フルNDI・NDI HX3・NDI HX2・SMPTE ST2110、伝送方式別の帯域と遅延の比較表
- ATEM・TriCasterのダウンストリームキーヤー(DSK)構造と、CG合成位置の判断基準
- 本番前に確認すべき「伝送遅延+合成段数」の許容値チェック手順
次の現場から、これらをそのまま使える状態で持ち帰ってほしい。
ここで止まるか、次に進むか
このまま伝送方式の遅延特性を確認せずに本番を迎えると、画面のズレが「機材の不調」や「センスの問題」として誤解されたまま終わる。本当の原因は数値で説明できる。その数値と確認手順を、ここから先にまとめた。
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