
フリッカー、ブレーカー、熱暴走、発火。ライトが引き起こす事故の仕組みと、45年の現場で固めた防ぎ方のすべて。
収録を終えて、編集室で素材を開いた。画面の奥に、うっすらと横縞が流れている。現場のモニターでは見えなかった縞だ。露出は合っていた。ライトも正常に点いていた。カメラの故障を疑って点検に出す手配までした。だが原因は機材ではなく、壁のコンセントから来る電気の「揺れ」だった。撮り直しはきかない。その日のゲストは、二度と同じ表情をしてくれない。
この縞には仕組みがある。日本の電気は1秒間に東日本で50回、西日本で60回、波のように向きを変えて流れている。波は1往復の間に2回ピークを打つから、照明は電気の周波数の2倍──東日本で毎秒100回、西日本で毎秒120回──点いたり消えたりを繰り返している(明滅周波数 = 電源周波数 × 2。電源周波数は電力各社の供給約款による)。人間の目はこの点滅を追えない。だがカメラのシャッターがこの周期より速く切られると、明るい瞬間と暗い瞬間を交互に記録してしまう。それが縞になる。

電源にはもうひとつ壁がある。日本の屋内コンセントは100V、ブレーカー1系統の上限は一般的な分電盤で20A。つまり1系統で使える電力は 100V × 20A = 2,000W が天井だ(電力 = 電圧 × 電流)。1,000Wのライトを2灯つなげば、それだけで天井に頭が着く。そこにPCと充電器を足した瞬間、部屋は暗転する。
安価なライトにはさらに別の罠がある。たとえて言えば、鍵盤が3本抜けたピアノだ。曲は弾ける。音も鳴る。だが抜けた鍵の音だけは、どれだけ指を叩きつけても永遠に鳴らない。粗悪なライトの光はこれと同じで、赤の波長だけが欠けたまま被写体を照らす。だから人の肌が土気色に写る。カメラ側でどれだけ調整しても、鳴らない鍵盤の音を録音することはできない。あなたの腕の問題ではない。光そのものが欠けているのだ。

救いはある。縞はシャッターの数値ひとつで止まる。ブレーカーは配線の割り振りで越えられる。欠けた光は、晴れた日の窓辺で、紙とトマト1個あれば見抜ける。電池から煙が出たときにやるべきことにも、明確な順番がある。すべて「型」として確立された手順だ。知っているか、知らないか。差はそれだけである。
この記事の有料部分には、次の内容をすべて書いた。
- 横縞を止めるシャッター速度の具体値(東日本/西日本別)
- 2,000Wの壁を越える配線分散の手順
- 白飛び・色かぶりを現場で即座に立て直すカメラ設定
- ストロボが熱で止まる仕組みと、止めずに使い続ける出力運用
- 風でスタンドを倒さない固定術と、吊り機材の落下を数センチで食い止める二重掛け
- 粗悪ライトを自宅で見抜く「北窓テスト」の全手順
- 調光ノイズが音声に乗ったときの3段階の切り分け
- PSEマークの真贋を見分ける表示の読み方(ひし形と丸形の違い)
- リチウム電池が発火したときの消火・水没・通報プロトコル
- ワイヤレストリガー不発光の原因となるネジ4本の締め直し

リチウムイオン電池の火災は、1年のうち7月に発生のピークが来る傾向が消防庁のデータで確認されている。今がその月だ。炎天下の車内は50℃から80℃に達し、電池はそこで静かに膨らみ始める。煙が出てから調べたのでは間に合わない。次の現場に出る前に、このあとの手順を頭に入れておいてほしい。
【有料部分】
ここから先は、機材のカタログには載らない話をする。仕組み、数値、手順の順で進める。読み終えたら、そのまま現場に持っていける構成にした。


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