DFSが電波を追い出す60秒間、スペクトラム設計で防ぐIP伝送の事故

客電が落ち、本番が始まって3分が経った頃だった。客席後方から狙っていた5GHz帯のワイヤレスIPカメラの映像が、コマ送りのように固まった。ケーブル区間の話ではない、無線区間で起きたことだ。受信機の電源は生きている。バッテリー残量も十分だった。受信機のリンクランプは点灯したままなのに、映像だけが1分近く動かなかった。リハーサルでは一度も起きなかった症状だ。

5GHz帯には国内でW52・W53・W56という3つの区分があり、このうちW53(52〜64ch)とW56(100〜140ch、8チャンネル)は電波法上、気象レーダーや航空・船舶レーダーとの周波数共用が条件になっている(出典:e-Words「W52/W53/W56とは」、エイチ・シー・ネットワークス「屋外で5GHz帯のWi-Fiは利用できない?知っておきたい電波法のルールを解説」)。この2区分を使う無線機器は、送信を始める前に約60秒間その場でレーダー電波を監視し、検出されなければ送信を開始する(出典:Cisco Meraki「Dynamic Frequency Selection(DFS)について」、ASUS「[Wi-Fiルーター] DFSとは?」)。運用中にレーダー波を検知した場合も同様で、機器は送信を止め、レーダーの影響がない別チャンネルへ移る。ワイヤレスカメラの送受信機が自動でW56の空きチャンネルを選んでいたなら、レーダーが通過した瞬間、画は問答無用で止まる。もう一つ、より身近な帯域にも同じ構造の制約がある。2.4GHz帯は1〜13chが使えるが、1チャンネルの幅は20MHzあるのに対して隣接チャンネルの中心周波数は5MHzしか離れておらず、重ならずに使える20MHz幅のチャンネルは1・6・11の3つしかない(出典:Acrylic WiFi「Why are WiFi channels 1, 6 and 11 used on 2.4GHz?」)。

これは高速道路の追い越し車線が、パトカーの巡回のたびに理由も告げず封鎖されるようなものだ。その車線を走っていた車に非はない。ただその車線を選んでいた、というだけで足止めを食う。ワイヤレスカメラも同じで、W53やW56を自動選択した時点で、いつ来るか分からないレーダーの巡回に付き合わされる契約を、知らないうちに結んでいる。
この事故は、事前のチャンネル設計と帯域の使い分けで防げる。DFSの対象にならない帯域を主回線に固定し、レーダー検知の対象になる帯域は最初から優先度の低い回線に回す。その具体的な割り振り方と、今日から現場で使える手順を、このあとに書いた。
有料部を読み終えると、次の三つが手元に残る。
- 2.4GHz・5GHz(W52/W53/W56)・6GHz、それぞれの帯域特性とDFS要否を整理した割り当て早見表
- 本番前にスペクトラムを確認し、主回線・予備回線・音響/通信部門の無線機器を衝突させずに割り振る6ステップの設計手順
- 症状別に原因帯域を特定するトラブルシューティング表(開演直後に固まる/客席が埋まると乱れる/インカム増設後にカメラが不安定になる、の3パターン別)

DFSの退避行動は、レーダーを検知してから約60秒、その帯域が使えなくなる(出典:ASUS「DFSとは?」)。この60秒がどのタイミングで来るかは、現場の誰にも分からない。本番前にチャンネルを設計しておけば、その60秒を主回線に持ち込まずに済む。次の現場で同じ事故を防ぐ割り当て手順が、このあとにある。
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