機材ケースを開けながら「このマイク、もう電波出せないんだよな」と気づいたとしたら——それは笑い話ではなく、電波法違反の瞬間だ。
ある劇場中継の現場での話だ。スタッフが在庫から持ち込んだワイヤレス送信機の周波数帯は770MHz帯、いわゆる旧A帯の機材だった。2019年4月以降、この帯域は携帯電話網に再割り当てされ、ワイヤレスマイクとして使うことは電波法違反になる。機器は壊れていない。電波も出る。だが、出た瞬間に違法だ。

問題は機材ではない。「周波数帯の移行が起きたという事実を知らないまま現場に立っていること」だ。
旧A帯(770〜806MHz)は2019年3月31日をもって全国一斉に使用終了となった(総務省告示・平成29年告示第476号に基づく移行措置)。それから6年が経つ今も、古い機材がそのまま保管棚に眠っているスタジオは少なくない。知らないまま使えば、行政罰の対象になりうる。
なぜ現場への浸透が遅れるのか。答えは単純だ——機器が「まだ動くから」だ。
アナログFM方式の特定ラジオマイク(A型)の送信出力上限は10mW(無線設備規則第49条の16)。デジタル方式でも50mWだ。デジタル50mWの干渉半径は約200〜350m(無線設備規則別表に基づく換算)——隣のホールどころか、外の街路まで電波が届く。その電波が、今や携帯電話の通信帯域に乗り込んでいる状態になる。

これは、廃止された道路を古い地図を頼りに走り続けるようなものだ。車は動く。エンジンも問題ない。ただ、その道はもう通行禁止になっている。

「免許の取得は面倒くさい」——そう思われることが多い。実態は違う。手順を正しく踏めば、無線従事者の資格試験なしに、約1か月で取得できる(特ラ機構案内・総合通信局の標準審査期間による)。何が必要で、何をすれば合法的にA帯を運用できるのか。その全容がこの有料記事にある。
この記事を読み終えると、次のことがわかる:

- 今、A帯として合法的に使える周波数帯はどこか(3帯域の違いと使い分け)
- 音質・安定性・チャンネル数でB型・2.4GHz帯と何が違うのか(数値で比較)
- 特ラ機構への入会から免許交付までの具体的ステップ(書類・窓口・期間)
- 免許取得で発生するコスト項目の全体構造(金額は変動するため省略、構造で把握する)
- 現場でよく起きる3つのミスと、それを防ぐ判断軸
45年の現場で、無線機材のトラブルを数えきれないほど見てきた。機材の問題ではなく「知識のギャップ」が原因だったケースが圧倒的に多い。次の現場でその穴を埋めるための情報が、このあとにある。


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