IPマルチビューワー設計の帯域計算とタリー制御実践ガイド
対象読者:撮影・中継業務に関わり、IP伝送技術に関心を持つすべてのプロフェッショナルへ。
本番15分前、急遽1台のカメラを追加しようとしたら画面が全部固まった

多カメラ収録の現場だった。ディレクターから「予備で置いていたカメラも本線に足したい」と本番15分前に指示が入った。スイッチャー担当は追加のカメラをネットワークにつなぎ、モニターウォールの空いた枠に映像を割り付けようとした。その瞬間、モニターウォール全体の映像がコマ落ちを始め、一部の枠は完全にフリーズした。誰も設定を間違えていない。ケーブルも正常だった。原因は、モニターウォールを構成しているマルチビューワーの入力ポートが、その1台を受け止めるだけの余白をすでに使い切っていたことだった。
「あと1台」が破綻を生む理由は、ポートの中の数字にある
IPマルチビューワーは、非圧縮の映像信号をそのまま何本も1つの画面に集める機器だ。1080iの非圧縮映像1本の帯域は1.485Gbpsになる(出典:SMPTE ST 274/SMPTE ST 2110-20 §6.4、本シリーズ既出)。この数字に入力本数を掛け算すれば、その機器が使うポート帯域が決まる。市販されているIPマルチビューワーの実機仕様を確認すると、16入力モデルは25Gの入力ポートを使い、実際の使用率は23.76Gbps÷25Gbps=95.04%に達する(計算根拠:16入力×1.485Gbps、出典:株式会社芙蓉ビデオエイジェンシー UMVシリーズ製品カタログ)。つまり、設計上あと1本の余白は4.96%しか残っていない。ここに「予備カメラをもう1台」を足そうとすれば、ポートの許容量を超え、映像が崩れるのは計算上当然の結果になる。

あなたは操作を間違えていない。設計段階の「余白」が足りなかっただけだ
これは、満員電車にもう1人乗り込もうとする状況に似ている。乗客(映像ストリーム)は誰も悪いことをしていない。ドア(入力ポート)が閉まらなくなるのは、そもそも定員ぎりぎりまで乗せていた設計の問題だ。マルチビューワーの入力ポートも同じで、95.04%まで使っている状態は「壊れる直前」ではなく「設計通りに満員」なだけだ。現場での判断ミスに見える出来事の多くは、実は選定・設計段階の余白計算で決まっている。

方法はすでに、実機の仕様書と規格書の中にある
入力本数からポート使用率を逆算する式、圧縮方式と非圧縮方式のどちらを選ぶべきかの判断基準、タリー・テキスト表示をどの規格で制御するか——これらはすべて公開されている規格書と製品カタログから導き出せる。感覚や勘に頼らず、数字で選定できる領域だ。
この記事で手に入るもの

有料部では、次の4点を具体的な数値とともに手に入れられる。
- 入力本数からポート使用率を逆算する計算式と、実機4モデル・2メーカーの比較データ
- 圧縮プロキシ方式と非圧縮ST 2110方式、どちらを選ぶべきかの判断基準
- タリー制御規格(TSL UMD Protocol/NMOS IS-07)の違いと共存の仕組み
- 導入前15項目チェックリストとトラブルシューティング5種
次の現場で、同じ事故を起こさないために
この計算を知らないまま本番を迎えると、「あと1台足したい」という現場からの当然の要望に応えられず、その場でモニターウォール全体を巻き込む事故につながる。次の現場で同じ事故を防ぐ具体的な設計手順を、このあとにまとめた。
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