90分の収録が、12個のファイルになっていた
64チャンネルの多重録音を回したまま、ステージ転換の確認に席を立った。戻ってディスクを開くと、90分のライブが12個のファイルに分かれて並んでいた。ファイル名は連番で、再生もできる。安心して編集ソフトに放り込んだら、4本目と5本目の境目で、ハイハットだけが半拍ずれていた。

原因を探しはじめたのは、納品の前夜だった。録音そのものは成功している。壊れたのは「繋ぎ目」だった。録音機は黙ってファイルを切り、黙って次を始める。切れたこと自体を、誰も教えてくれない。
切れる時刻は、計算で先に決まっている
WAVの系譜にあるファイル形式(RIFF)は、ファイルの大きさを32ビットで書く。上限は4GiB、つまり4,294,967,296バイトだ。64チャンネル・24ビット・48kHzの収録は、1秒あたり 64 × 3バイト × 48,000 = 9,216,000バイトを書き込む。4,294,967,296 ÷ 9,216,000 = 約466秒。7分46秒で壁に当たる。90分(5,400秒)では 49,766,400,000バイト(約46.35GiB)となり、12個のファイルと11か所の繋ぎ目が確定する。

出典:EBU Tech 3306 v2(欧州放送連合、2018年)、および上記の算術。日本国内の規格に、このファイルサイズ上限を定めた数値規定はない。だから現場の設計で守るしかない。
あなたの手順が悪いのではない
この事故は、リレーのバトンゾーンに似ている。走者(録音機)は全力で走っている。バトンの受け渡しは20メートルの区間内で終われば合法だが、渡した瞬間の走者の位置を誰も記録していなければ、タイムは後から証明できない。録音ファイルの繋ぎ目も同じで、次のファイルが「どの瞬間から始まったか」の記録が正しいかどうかを、検算した人がいなかっただけだ。

壁は一枚ではない。ファイル形式の壁、メディア(カードやディスク)の壁、時刻の記録の壁、読み込むソフトの壁。4枚が別々の場所に立っている。どれか1枚だけ対策しても、残りの3枚で同じ症状が出る。
解決の道筋は、ある
4枚の壁は、順番に潰せる。しかも、現場で使うのは足し算と引き算だけだ。繋ぎ目が1サンプル(48kHzで約0.0208ミリ秒)もずれていないことを、5秒で検算する式がある。
この先で手に入るもの
- 構成別の「4GiBに到達する時間」早見表(2ch〜128ch、48kHz/96kHz)
- 4枚の壁を漏れなく点検する診断マップ
- 繋ぎ目を検算する式と、手計算の実例
- 29.97fps環境で3.6秒/時間ずれる落とし穴の見分け方
- 録音機を2台で互い違いに切る、継ぎ目のない運用設計

次の現場の前に
有料部を読み終えたとき、早見表・検算式・事前チェックリストの3点が手元に揃う。次の現場の機材搬入の前に、10分で使える形にしてある。


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