露出の「時間軸」を制する者が映像を制する
ある本番の朝、画面が「ズレた」

スタジオ収録の現場。カメラマンが電子シャッターに切り替えたまま、出演者が歩いてフレームインした瞬間、モニターを見た全員が言葉を失った。人物の輪郭が斜めに崩れ、床のタイルが平行四辺形に歪んでいる。収録は一時中断。原因を特定するのに25分かかった。
電子シャッターの「ローリング歪み」だ。誰もが知っている言葉だが、なぜ起きるのかを正確に理解していなかった。だから防げなかった。
「速くすれば止まる」は半分しか正しくない
シャッタースピードについて、現場でよく聞く誤解がある。

誤解① 「電子シャッターは速いから有利だ」
ソニー A7 IV の電子シャッターは、センサー全体の読み出しに約66ミリ秒かかる(Sony公式スペック)。一方、同機のメカニカルシャッターの全走行時間は3〜4ミリ秒だ。電子シャッターはメカニカルと比較して読み出しに約16〜22倍の時間を要している。この差が、動体の「歪み」として画面に現れる。
誤解② 「電子先幕(EFCS)は万能の設定だ」
EFCSは振動を抑える優れた機能だが、シャッタースピードが1/1000秒を超えた状態で絞りを開放付近に設定すると、玉ボケの縁が平らに欠ける現象が出る。f/1.4の明るいレンズで晴天ポートレートを撮るとき、EFCSをオンにしたまま1/4000秒を切ると、背景のボケがざわついた質感になる。その原因は、電子的な先幕とフィジカルな後幕の「空間的な位置の差」にある。
誤解③ 「シャッタースピードは写真だけの話だ」
動画における「フリッカー」——画面を横切る縞模様——も、シャッタースピードと電源周波数の「ズレ」が原因だ。日本では東日本が50Hz、西日本が60Hzと電源周波数が異なり、同じカメラ設定でも撮影地域によってフリッカーが出ることがある。これを知らずに「なぜ縞が入るのか」と悩む現場は今も後を絶たない。
時間を扱う道具の「物理的な限界」を知る
シャッタースピードを、蛇口の開閉にたとえてみよう。蛇口を開けている時間が「露光時間」であり、水の量が「光の量」だ。重要なのは、蛇口そのものが動く速度(幕速)と、蛇口を開けている時間(シャッタースピード)は別の話だということだ。
フォーカルプレーンシャッターの幕速は、通常1/200〜1/320秒の範囲にある。1/8000秒という超高速シャッタースピードは、幕が1/8000秒で移動しているのではない。先幕と後幕が「細いスリット」を作りながら同方向に走り、各画素がそのスリットを通過する瞬間だけ光を受ける——その制御で実現している。
この記事の有料部で手に入るもの

- フォーカルプレーンシャッターの「幕速とスリット走行」の詳細メカニズム
- 電子シャッター(ローリング)・電子先幕(EFCS)・グローバルシャッターの動作原理と適材適所
- フラッシュ同期速度(X-Sync)・ハイスピードシンクロ(HSS)の仕組みと現場での判断基準
- 動画の「シャッター角度」という概念と180度則の使い方
- 日本の50Hz/60Hz問題——フリッカーを防ぐシャッタースピードの選び方
- 現場でよくある3つのミスと、それぞれの正しい対処法

この設定を知らないまま本番を迎えると、復旧作業に25分以上かかることがある。次の現場で同じ事故を防ぐ手順が、このあとにある。


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