速度カーブのハンドルを少し持ち上げただけで、加速の入り口でコマが一瞬詰まったような違和感を覚えたことはないか。狙った加減速のはずが、なぜか着地点でわずかに失速する。原因を探ろうとタイムラインを何度も往復し、結局「気のせいか」で片付けて本番に送り出した経験を持つ編集者は、あなた一人ではないはずだ。

Blackmagic Designが2026年7月21日に公開したDaVinci Resolve 21.0.3は、この種の違和感の正体に正面から向き合ったアップデートである。目玉は「リタイムイーズ優先モード」と呼ばれる速度・フレーム両カーブのイージング制御の刷新、そして旧バージョンの挙動を選び直せる「レガシー速度モード」の追加だ。加えて、キーフレームのイーズ操作にショートカットキーを直接割り当てられるようになった。地味に見えて、日々のオペレーションの体感速度を変える改修である。

21.0.3は何をどれだけ変えたのか
まず全体像を数字で押さえておく。Newsshooter誌とRedShark News誌がそれぞれ独自に掲載した公式チェンジログを突き合わせると、無料版とStudio版を合わせて25項目の変更が確認できる(出典:Newsshooter「DaVinci Resolve 21.0.3 Update」2026年7月21日付、RedShark News「DaVinci Resolve 21.0.3: what’s new」2026年7月22日付。両誌の項目リストは完全に一致しており、Blackmagic公式の変更内容をそのまま転載したものと判断できる)。この25項目を漏れなく分類すると、次の5領域に収まる。
領域 項目数 内容の例 アニメーション・リタイム制御 5 レガシー速度モード、キーフレームイーズのショートカット化、ベジェハンドルの不具合修正など 放送・インターレース処理 5 トランジション長のフレーム表示、フィールド優先度検出の修正、Replay SDI出力の固定化など システム基盤(ハードウェア・導入・安定性) 4 旧世代IntelでのQuickSync復活、Windows ARM版の導入先カスタマイズ、全体の安定性改善など スクリプティングAPI・ドキュメント 6 プロジェクト属性の一覧取得、UIレイアウトプリセット操作など4種のAPI追加、マニュアル更新など メディア互換性・出力品質 5 Sony BURANO X-OCNのデコード修正、DNGプリトーンカーブの既定有効化など

この中で今回主役に据えるべきは、最初の「アニメーション・リタイム制御」の5項目だ。数としては全体の20%に過ぎないが、動画の演出や編集に日常的に関わる人間にとっては、体感的な影響が最も大きい部分である。
なぜ速度カーブは「狙った通り」に動かなかったのか
スピードランプ、つまり100%から一時的に加速し、また100%へ戻すような演出は、映像の緩急を作る定番の手法だ。DaVinci Resolveではこの加減速をベジェ曲線(滑らかな弧を描く数学的な線)で表現している。ベジェ曲線は、ハンドルの引き方によって弧の形が大きく変わるという性質を持つ。ハンドルを急角度で引き上げると、弧が本来の目標値を通り越して膨らんだり、逆に目標に届く直前でわずかに凹んだりする。これはDaVinci Resolveに限った不具合ではなく、ベジェ曲線を速度制御に使うあらゆるソフトウェアに共通する数学的な性質である。

DaVinci Resolve 21では、この速度カーブとフレームカーブ(実際に読み込むソース映像のコマ位置を管理する曲線)をより一体的に扱う計算方式に刷新されていた。統合されたことで理論上は精度が上がるはずが、現場では「加速直前や減速直後にわずかな引っかかりを感じる」という報告が編集者コミュニティの中で語られてきた。21.0.3の「リタイムイーズ優先モード」は、この速度カーブとフレームカーブそれぞれのイーズイン・イーズアウトの優先順位を制御し、ハンドルの張力計算を調整する機能だ。加えて「レガシー速度モード」は、DaVinci Resolve 18から20系で使われていた、各スピードポイントを独立して補間する旧来のロジックを選び直せる選択肢である。複雑な統合計算に依存せず、シンプルな直感的操作でカット編集を進めたい現場には、こちらの方が扱いやすい場面もあるだろう。

たとえて言うなら、これは同じ道を走るのに、自動運転支援に任せるか、自分でハンドルを切るかを選べるようになったようなものだ。自動運転支援(新しいイーズ優先モード)は複数の要素を統合的に判断してくれるぶん、状況によっては人間の予想と違う挙動を見せることがある。手動運転(レガシー速度モード)は制御がシンプルな分、予測は立てやすいが、滑らかさの作り込みには経験が要る。どちらが優れているかではなく、どちらを今のカットに使うべきかを選ぶ判断力が問われる。

タイムラインで今すぐ試せる手順
実際の操作は次の順番で進めるとよい。
まず対象クリップを選択し、Ctrl+R(Macの場合はCmd+R)でリタイムコントロールを表示する。速度を変えたい位置に再生ヘッドを置き、クリップ上のパーセンテージ表示から「スピードポイントを追加」を選ぶ。ここまではこれまでと同じだ。
次に、クリップ右下のリタイムカーブを展開し、表示を「リタイム速度」に切り替える。ここで初めて、速度がどう変化しているかを目で確認できる状態になる。この時点でカーブが台形やなだらかな山型ではなく、いびつな凹凸を描いているなら、ハンドルの引き方を見直すサインだ。ハンドルは垂直方向に強く引き上げるのではなく、水平方向、つまり時間軸に沿って伸ばす。これだけで凹みの大半は解消する。

それでも挙動が気に入らない場合は、クリップの速度メニューから「レガシー速度モードのリタイムカーブ」を選び、旧ロジックに切り替えて比較してみるとよい。同じスピードポイントでも、見え方がどれだけ変わるかを実際に見比べることが、この機能を使いこなす一番の近道である。
キーフレームのイーズ操作については、環境設定内のキーボードカスタマイズ画面から「Keyframe Ease」に関連するコマンドへ好みのキーを割り当てておく。タイトルやグラフィックのアニメーションを複数まとめて選択し、割り当てたキー一つでイーズイン・イーズアウト・スムーズ・リニアを適用できるようになる。数十枚のテロップに同じ緩急を揃える作業が、右クリックからメニューを辿る操作の繰り返しから、キー入力一回に置き換わる。この差は、案件の本数が増えるほど効いてくる。
なお、10%から25%程度まで速度を落とし込む極端なスローモーションでは、素材のフレームレート由来のコマ落ちが目立ちやすい。インスペクタの「リタイムとスケーリング」パネルでリタイム処理を「オプティカルフロー」または「Speed Warp」に切り替えると滑らかさが増すが、これは21.0.3で新しく追加された機能ではなく、以前のバージョンから存在する仕組みだ。イーズ優先モードで作った滑らかな速度カーブと組み合わせることで、境界部分の破綻をさらに抑えられる、という位置づけで理解しておくとよい。
よくある操作ミスと、少し珍しいつまずき方
現場でよく見かける操作ミスは二つある。一つは、ハンドルを勢いよく縦に引き上げてしまい、狙った以上に急激なカーブを作ってしまうことだ。前述の通り、ハンドルは横方向に伸ばすのが基本であり、縦方向の操作は最小限にとどめるべきである。もう一つは、同じシーケンス内で一部のクリップだけレガシー速度モードに切り替え、残りは新しいイーズ優先モードのままにしてしまうミスだ。クリップごとに異なる補間ロジックが混在すると、似たような速度変化のカットなのに緩急の印象が微妙にずれる、という気づきにくい不整合を生む。プロジェクト、あるいは少なくとも同一シーン内では、どちらのモードを使うかを最初に決めて統一しておいた方がよい。
やや珍しいつまずき方としては、放送用の1080iプロジェクトを旧バージョンのライブラリから引き継いだ際に起こる。21.0.3ではフィールド優先度の自動検出ロジックが見直されており、トランジションの長さがインスペクタ上でフレーム数として明示されるようになった。この変更自体は歓迎すべき改善だが、旧バージョンの挙動に慣れたオペレーターほど、アップデート直後にトランジション長の見え方が変わったことに戸惑いやすい。プロジェクトを開いたら、まずインスペクタでトランジションのフレーム数を一度確認する習慣をつけておくと、余計な混乱を避けられる。

放送・ハードウェア・スクリプティングの補強点
リタイム周り以外にも、実務に関わる改善が積み重ねられている。放送・インターレース分野では、環境設定で指定したフレーム数がタイトルやジェネレータ、トランジションの既定の長さに正しく反映されるようになり、フィールド優先度の自動判定も精度が上がった。ハードウェア面では、Studio版において旧世代Intel GPU搭載環境でのQuickSyncエンコードが復活し、内蔵GPUしか持たない機材でもH.264・H.265のハードウェアアクセラレーションが使えるようになった。あわせてWindows ARM環境向けに、カスタムエンコードSDKの導入先を指定できるようになっている。
パイプライン開発者向けには、PythonとLuaのスクリプティングAPIに4種の機能が追加された。プロジェクトビンからのプロジェクト属性一覧取得、ユーザー環境設定プリセットの参照、UIレイアウトプリセットの一覧取得、データバーンインプリセットの一覧取得と削除である。スタジオ全体の設定管理を自動化したい制作進行やパイプラインエンジニアにとっては、地味だが手数を減らせる追加だ。

結び
冒頭で触れた「加速の入り口でコマが詰まったような違和感」は、気のせいではなく、ベジェ曲線が持つ数学的な性質と、それを制御するロジックの設計次第で生まれるものだった。DaVinci Resolve 21.0.3は、その制御ロジックに「イーズ優先モード」という新しい選択肢と、「レガシー速度モード」という後戻りできる安全弁の両方を用意した。どちらか一方が正解なのではなく、今手掛けているカットの性質に応じて選び分けられること自体が、このアップデートの価値である。
キーフレームイーズのショートカット化も含め、今回の変更はどれも派手な新機能ではない。だが、45年という単位で現場を見てきた人間の実感として言えば、こうした地味な操作性の改善こそが、締切に追われる日々の作業時間を確実に削ってくれる。次にスピードランプを組む機会があれば、まずはハンドルの引き方を横方向に意識し直すところから試してみてほしい。それだけで、画面の印象は変わるはずだ。
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著者プロフィール 尾上泰夫(おのりん)onoring
テクニカルエバンジェリスト、映像システムのテクニカルディレクター。TriCasterオペレーター、ATEM認定トレーナー。放送、Web配信、企業VP、ライブイベントなど、幅広い分野で映像システムの設計・運用に携わる。複雑な技術をわかりやすく伝えることをモットーに、トレーニングや執筆活動も行っている。
情報展示システムの設計、スタジオ構築、社内IP放送局、配信技術のレクチャー、講演、トレーニング、動画の学校を主宰など、
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