自家発電とIP映像機材の相性設計
対象読者:撮影・演出・音響・照明・編集・配信・制作進行に関わり、IP伝送技術に関心を持つすべてのプロフェッショナルへ。
開演のSEが鳴った3秒後、副調整室のモニターが一瞬だけ止まった
野外の企業イベントだった。オープニング映像が明けて、ステージの照明が一斉に本尺の明るさまで上がった。その3秒後、副調整室のマルチビューの右端、袖に立てたNDIカメラの映像だけが静止した。

スイッチャーのオペレーターはケーブルを疑い、予備のLANケーブルに差し替えた。テック担当はスイッチのポートランプを確認した。リンクは点灯していた。誰も間違えていなかった。会場の電源が商用ではなく、機材車横のディーゼル発電機だったという事実に、その場にいた誰も注意を払っていなかっただけだ。
翌週、発電機のメーカーへ症状を伝えて分かったのは、周波数がズレていたわけではないという事実だった。発電機は規定の周波数をほぼ守っていた。壊れていたのは、波形そのものの「かたち」だった。
犯人は周波数ではなかった
映像機材が発電機で不調になると聞くと、真っ先に周波数のズレを疑う。だが業務用スイッチング電源の入力仕様は、47Hz〜63Hzという幅広い範囲に対応する設計になっている(出典:FSP Group社「FSP400-70AGGBM」データシート、MEAN WELL社「LRS-50-5」データシート)。50Hz地域と60Hz地域をまたいで同じ機材が使える設計になっているのは、この仕様のおかげだ。発電機の回転数が多少ぶれても、電源ユニットそのものはそう簡単には音を上げない。

本当に機材を追い詰めるのは、電圧が波打つ「かたち」の乱れと、負荷が急に増えた瞬間に電圧が沈み込む速さの2つだ。総合波形歪率(THD)という指標で見ると、インバーター式の発電機はTHDを3%未満に抑える設計になっているのに対し、非インバーター式(従来型)の発電機は負荷条件によって12%〜20%に達する(出典:Champion Power Equipment社ヘルプセンター「Total Harmonic Distortion」解説記事)。IEEE 519-2022は、1kV以下の系統において総合電圧ひずみ率を8.0%以下、個別の高調波成分を5.0%以下に抑えることを推奨値としている(出典:Quality Energy社によるIEEE 519-2022解説記事、Mirus International社ホワイトペーパー)。従来型発電機の実力値12%〜20%は、この8.0%という推奨上限を単純に超えている。
あなたの現場は悪くない。三脚がトランポリンの上に立っているだけだ
これは、トランポリンの上にカメラの三脚を立てているのと同じ状態だ。三脚(機材)は正常に組まれている。カメラ(電源ユニット)も故障していない。それでも足場(電源そのものの波形と電圧)が絶えず揺れていれば、画は静止しない。原因を三脚やカメラの中に探しても見つからない。揺れているのは、いつも当たり前だと思っている「地面」の方だからだ。

商用電源という「コンクリートの床」の上でしか機材を運用したことがない現場ほど、発電機という「トランポリンの上の床」に立たされたときに戸惑う。これは技術者の経験不足ではない。地面の性質そのものが変わったのに、同じ立ち方で乗り続けようとした結果だ。
方法はすでに存在する
発電機の電源品質は、周波数・波形・電圧の過渡応答という3つの軸に分解すれば、どこで機材が音を上げるかを事前に見積もれる。容量計算に必要な数値も、非線形負荷の割合から逆算できる。これらはすべて、電気設備の設計分野ではすでに確立された計算式と閾値として存在している。
この記事で手に入るもの
有料部では、次の3点を具体的な数値とともに手に入れられる。
- 発電機の電源品質を「波形・電圧の過渡応答・中性線」の3軸で診断するチェック手順
- 非線形負荷(PoEスイッチ・エンコーダー等)を前提にした発電機容量の計算式とマージン設計
- 疑似正弦波と正弦波、UPSを挟む場合と挟まない場合の相性早見表とトラブルシューティングフロー

ここから先は、45年の現場で積み上げた判断軸だ
「発電機の容量は足りているはずだ」という定格表示だけの判断で本番を迎えると、負荷が動いた瞬間に何が起きるかを予測できないまま現場に立つことになる。次の現場で同じ揺れを踏まないための設計手順を、このあとにまとめた。


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