野外配信で使うキャリア別周波数割当および基地局インフラ外観の総合的分析
昨年秋、湾岸エリアで三日間続いた野外音楽フェスの配信を任されたときの話だ。

前日のロケハンでは、スマートフォンの電波表示はどのキャリアも4本。同行したモバイル回線担当者も「これなら本番も問題ない」と太鼓判を押していた。ところが二日目の午後、来場者が最も密集する時間帯に、映像が数秒間フリーズする現象が繰り返し起きた。回線速度そのものは落ちていない。原因に気づいたのは、現場を離れてログを読み返した後だった。

電波表示の「4本」が示しているのは、実はRSRP(基準信号受信電力)というひとつの指標に過ぎない。特定の基地局から届く電波そのものの強さであり、単位はdBmで表される。だが通信の安定性を決めるのはそれだけではない。周辺のセルからの干渉を含めた総受信電力(RSSI)との比率であるRSRQ、そして雑音・干渉に対する希望波の比率であるSINRこそが、実際の「聞き取りやすさ」を左右する。3GPP TS 36.214の測定定義に基づく一般的な運用基準では、RSRPが-80dBm以上と良好でも、RSRQが-13dB未満、SINRが0dB以下まで落ち込めば、通信は事実上「不可」の領域に入る。人口密集エリアでは、RSRPが-75dBm程度と良好な値を示していても、周辺基地局からの干渉でRSSIが膨張し、RSRQとSINRだけが悪化する現象が起きる。

これは、混み合った会場で隣の人に大声で話しかけられている状態に近い。声(RSRP)ははっきり届いている。だが会場全体の歓声(干渉・雑音)が大きすぎて、何を言われているのか聞き取れない——それがRSRQ・SINRの低下という現象の正体だ。電波が「弱い」のではない。「聞き取れない」のである。現場のスタッフが電波の見た目だけを信じて判断を誤るのは、能力の問題ではない。見ている指標そのものが違うからだ。

この「聞き取れない」状態を事前に見抜く方法は存在する。RSRQとSINRを現場で読み取る手順、そしてキャリアごとの周波数割当と基地局の外観的特徴から、その場所で最も安定した回線を選び出す判断軸——これらを組み合わせれば、ロケハンの結果は、電波表示だけを見ていたときとは別物になる。

有料部では、次を明らかにする。
・RSRQ・SINRを現場で読み取る具体的な手順 ・NTTドコモ/KDDI/ソフトバンク/楽天モバイル、4社の周波数帯割当とそれぞれの得意なエリア特性 ・基地局の外観だけでキャリアを判別する視覚的な手がかり ・ロケハンから本番当日まで落とし込む、回線選定の判断フロー

電波表示を信じて機材を並べる段階は、もう終わりにしていい。次の現場で同じフリーズに遭遇する前に、その判断軸を先に手に入れておこう。



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