編集室で、手が止まる
縦型の書き出しが終わった。スマホに転送して再生する。4Kモニターで見ていた顔が、別の絵になっていた。ピントは合っている。ビットレートも上げてある。それでも肌の質感が戻らない。

経験のある人ほど、ここで設定を疑う。シャープを足し、書き出しをやり直し、また転送する。時間だけが過ぎる。この場合の原因は、書き出しの設定にはなかった。切り出した瞬間に、使える画素の数が決まっていたのだ。
31.6%という数字
16:9の横長画面から9:16の縦長を切り出すと、使える面積は元の81/256、つまり31.64%になる(計算根拠:縦長の比 9/16 ÷ 横長の比 16/9)。
たとえば1920×1080(2,073,600画素)の素材。高さ1080画素を残して9:16に切ると、幅は607.5画素になる。偶数に丸めて608×1080、656,640画素。元の31.67%だ。これを縦型の出力1080×1920(2,073,600画素)に合わせると、面積で3.16倍に引き伸ばすことになる(2,073,600 ÷ 656,640 = 3.158)。出力画素のうち、実際に撮れた情報は31.67%。残り68.33%は、計算で作った補間の画素である。

出力の寸法は、事実上1080×1920で決まる。YouTubeヘルプは、ショート動画の最大解像度を1080pと案内している(出典:YouTubeヘルプ「YouTubeショート」)。
あなたの腕のせいではない
大判の織物から細長い帯を切り出し、元の布と同じ面積まで引き伸ばした場面を想像してほしい。織り目の本数は変わらないのに、広がった面積に散らばる。遠目には布に見える。近づくと目が粗い。

縦型への切り出しも同じ構造だ。織り目が画素で、引き伸ばしが拡大である。ピントも露出も正しい。画が甘く見えるのは、腕ではなく算数の問題だ。算数なら、先に潰せる。
崩れる場所は4か所しかない
縦型の画が崩れる場所は、撮る・切る・縮める・見せる、この4つの持ち場のどれか1か所に必ず収まる。どこで起きているかが分かれば、直す手は1つに絞れる。場所を決めずに設定を触り続けると、直ったように見えて別の持ち場が壊れる。
手順は存在する。しかも、順番が決まっている。
この記事で手に入るもの
- 4つの持ち場ごとに、合格・要注意・不合格を分ける数値の判定表
- 素材の画素数から、拡大率と補間画素率を2分で出す計算手順(所要時間つき)
- 縦型の書き出し寸法とレベルの早見表、IP伝送に載せるときの帯域の試算表
- 本番前の点検リストと、症状から原因の持ち場を引く早見表

この先に
HD素材から縦に切って書き出した映像は、出力画素の68.33%が計算で作られた絵になる。同じ素材をもう一度書き出す前に、この数字を持っておいてほしい。切り出しの前に拡大率を計算すれば、2分で避けられた手戻りである。次の現場で同じやり直しを避ける手順が、このあとにある。


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