壁のコンセントが102Vだとする。断面積1.25mm²のコードを50m伸ばし、1000Wの機材をつなぐ。
計算上、コードの先端に届く電圧は86.9Vだ。15.1Vが、コードの中で熱になって消える。

ブレーカーは落ちない。コードは切れない。機材も、とりあえず光る。だから誰も気づかない。壁の電圧しか見ていないからだ。
日本の家庭用コンセントは、95Vまで下がることを許されている
電気を送る側が守る範囲は、標準電圧100Vに対して101V±6V。つまり95Vから107Vだ(資源エネルギー庁「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」、電気事業法第26条にもとづく記述)。壁の時点で、すでに最大12Vの幅がある。

そこへコードが割り込む。1.25mm²のコードは、1kmあたり最大15.1Ωの抵抗を持つ(20℃、共立電気計器のVCTFカタログ値)。50mなら片道0.755Ω、行って帰ってくるので1.51Ω。10Aを流せば15.1Vだ。
壁が下限の95Vなら、先端は79.9V。供給側が許した下限から、さらに15.1V下がる。
電圧が足りなくなる理由は、3か所のどれかに必ず入る。壁から来る電圧そのもの。壁から機材までの道のり、つまりコードの長さ、断面積、巻き方、つなぎ目。そして機材が引っ張る電流。この3つに分けて数字を置けば、現場で「なんとなく調子が悪い」と呼ばれていたものの正体が見える。
あなたは悪くない。ホースの話だ
庭の散水ホースを思い出してほしい。蛇口は全開なのに、細いホースを50m伸ばすと、先の水は勢いを失う。蛇口が壊れたわけではない。水が通る道が、細くて長いのだ。しかも、ホースをリールに巻いたまま使うと、中で水ではなく熱が溜まる。

電気も同じ道理で動く。コンセントは健康で、機材も健康。ただ、その間の道のりが、電圧を食っている。
機材を疑い、スイッチを疑い、ネットワークを疑って、数時間を使う人がいる。疑う順番が違うだけだ。
方法はある。しかも、事前に計算できる
コードの断面積、長さ、流れる電流。この3つが分かれば、先端の電圧は現場に着く前に逆算できる。実測で裏を取る方法もある。テスター1本あればいい。
NITE(製品評価技術基盤機構)が2009〜2013年度に受けた延長コード・コードリール関連の事故通知は48件。そのうち20件、41.7%が火災だった。原因の内訳は、ねじり接続などによる接触不良が36件(75.0%)、定格を超える使い方による発熱が12件(25.0%)。この2つで100%を占める。
発熱の入口は、どちらも「電気が通る道のどこかで抵抗が増えた」ことにある。
この記事で手に入るもの
- 50m・30m・20m・10mのコードに、5A・10A・12A・15Aを流したときの電圧降下の早見表
- 現場で2分で終わる電圧降下の計算手順と、太さを選ぶための判定基準
- テスターで先端の電圧を測り、計算と突き合わせる2点測定の手順
- 「定格内なのに危ない」状態を見抜く、定電力負荷の考え方
- 巻いたままのコードリールで発熱する理由と、使ってよい条件の見分け方
- 症状から疑う場所をたどる、トラブルシューティング早見表

次の現場の電源図に、ひとつ数字を足してほしい
この電圧降下の計算を知らないまま現場を組むと、機材が動いたことを「問題なし」と読み違える。動くことと、余裕があることは別の話だ。
私は45年、現場で電源を配ってきた。その判断軸を、あなたには30分で受け取ってほしい。この先に、コードの先端の電圧を、電源を入れる前に言い当てる手順がある。


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