大阪のホールでは何の問題もなかったカメラ設定を、そのまま東京のスタジオに持ち込んだ。

モニターを見る。映像の下から、薄い横縞がゆっくり昇ってくる。1本、また1本。肉眼で天井のLEDパネルを見上げても、まったく普通に光っている。レンズのせいか、ケーブルか、カメラ本体の不調か。30分かけて機材を疑い、予備カメラに差し替え、それでも縞は消えなかった。原因は機材ではなかった。東京と大阪では、壁のコンセントから出てくる電気の「脈」の速さが違う。それだけの話だった。
数字で見る、ちらつきの正体
日本の電気は、富士川(静岡県)と糸魚川(新潟県)を結ぶあたりを境にして、東側が50Hz、西側が60Hzに分かれている(出典:ジョーシン「東日本50Hz・西日本60Hz」解説。境界はおよそのもので、厳密な線ではない)。

LED照明は、この電気の脈に合わせて、1秒間に100回(50Hz地域)または120回(60Hz地域)、明るさを小さく上下させている。計算根拠は単純で、交流は1周期に明暗のピークが2回あるため、周波数×2になる(50×2=100、60×2=120)。人の目には見えない。しかしカメラは見える。
もうひとつ数字を挙げる。50Hz地域で、日本の放送で標準的な59.94フレーム/秒(ITU-R BT.709が定める60/1.001)の撮影をする。シャッターを何も考えずに1/60秒に置くと、1回の露光(16.7ミリ秒)の間に、明るさの脈が1.67周期ぶん入り込む。端数の0.67周期のせいで、フレームごとの明るさが最大で±16.5%ずれる(筆者計算。変調度100%の正弦波と仮定した場合の目安で、実機の波形は器具ごとに異なる)。
「あなたの設定ミス」ではない
脈打つ水道の蛇口から、計量カップで水を汲む場面を想像してほしい。蛇口は1秒に100回、強く出たり弱く出たりしている。カップを差し込んでいる時間によっては、毎回ほぼ同じ量が溜まる。別の時間にすると、汲むたびに量が変わる。

カメラのシャッターは、このカップと同じ働きをしている。誰が悪いのでもない。蛇口の脈の速さと、カップを差し込む時間の組み合わせが悪かっただけだ。だから、腕のいいカメラマンでも、初めての会場では同じ縞に当たる。
この問題には、計算で決まる答えがある
ちらつきは、運や勘で消すものではない。会場の電気の周波数がわかれば、安全なシャッターの値は逆算で決まる。そして、その値を決めるだけでは終わらない。ちらつきは画質を荒らすだけでなく、配信のデータ量にも跳ね返る。ここまで含めて整理して初めて、本番で「たぶん大丈夫」を卒業できる。
この記事の有料部で手に入るもの
- 会場の周波数を、3分以内で確かめる3つの方法
- 50Hz・60Hzの両地域で使える、シャッター値の早見表(24p・30p・60pの組み合わせ別)
- 1/48秒の「映画風シャッター」が、地域によって当たり外れになる理由と対処
- 光源側の原因と撮影側の原因を切り分ける、5つの診断手順
- ちらつきが配信のデータ量に与える影響を、自分の機材で数値にする測定手順
- 現場に貼れる、1枚のセッティングシート

次の現場の前に
有料部を読み終えたとき、周波数別シャッター早見表・現場確認の手順・配信への影響の測定法の3つが手元に揃う。次の現場の準備時間に、そのまま使える。


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