LED照明のPWM周波数とシャッター角、相性を数値で解く
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肉眼では、何も起きていなかった

企業VPの収録、本番前日の最終チェックだった。ステージにはArt-Net制御のLEDパネルライトを組み、配信用のカメラも仕込み終えていた。肉眼で見る照明はいつも通り、ごく普通に灯っていた。ところが配信卓のモニターに映した映像だけ、画面の上から下へ、薄い横帯がゆっくりと波打つように流れていた。照明オペレーターは調光レベルを何度も変えたが、帯は消えない。カメラマンはレンズを疑い、配信担当はケーブルとスイッチャーの設定を疑った。原因が照明側ではなく、カメラのシャッター速度という「数字の組み合わせ」にあると分かったのは、翌日の本番2時間前だった。
帯の正体は、2つのリズムのズレだった
LED照明の調光は、PWM(パルス幅変調)という高速な点滅で明るさを作る方式が主流だ。人の目は網膜の残像でこの点滅を感じ取れないが、カメラのセンサーは画面を上から下へ一列ずつ露光するローリングシャッター方式が主流であり、点滅のタイミングと露光のタイミングが噛み合わない瞬間だけ、明暗の差がそのまま帯として写り込む。古い蛍光灯やHMIのような放電灯の場合、この点滅は電源周波数のちょうど2倍で起こる。50Hz地域なら100Hz、60Hz地域なら120Hzだ(交流を整流する際、正負どちらの山も光として放出されるため、点滅の回数は周波数の2倍になる——整流回路の一般原理による)。LEDのPWMはメーカーが自由に周波数を設計できるため、この「2倍則」には縛られない。だが、その点滅速度がシャッター速度と割り切れない関係にあると、同じ現象が起きる。国際的な照明の安全指針であるIEEE 1789-2015では、点滅を体感しにくい「低リスク」の変調深度を「変調率(%) = 0.08 × 周波数(Hz)」という式で示している(90Hz〜1250Hzの範囲に適用)。この式に周波数100Hzを当てはめると許容される変調率は0.08×100=8%、1200Hzを当てはめると0.08×1200=96%になる。同じ「安全」でも、周波数が低いほど許される点滅の深さは浅くなる。

あなたの照明技術が未熟だったわけではない
この現象は、メトロノームを2台、ほぼ同じテンポで別々に鳴らしたときの現象に近い。1台が毎分120回、もう1台が毎分119回のテンポで刻むと、最初は重なって聞こえても、少しずつズレが積み重なり、やがて「重なり」と「ズレ」を繰り返すゆっくりとしたうねりが生まれる。照明の点滅とカメラの露光も同じ構造だ。周波数がわずかに違うだけで、画面の帯はゆっくりと上下に流れ続ける。照明の技術が未熟だったわけでも、カメラの故障でもない。2つのリズムが、たまたま噛み合っていなかっただけだ。
方法はすでに数式の中にある

この現象は運任せではない。シャッター速度をどの分数に設定するか、LED照明のPWM周波数をどこに設定するか——この2つの数値の関係さえ押さえれば、本番前の机上検討で発生を防げる。60Hz電源の地域で安全とされるシャッター速度には共通のパターンがあり、メーカーや機種が変わっても同じ考え方がそのまま使える。
この記事で手に入るもの
有料部では、次の4点を具体的な数値とともに手に入れられる。
- シャッター速度とLED照明のPWM周波数の相性を、本番前に机上で判定する計算式
- 東日本50Hz・西日本60Hzという日本特有の事情が、地方収録でどう影響するかの整理
- 放電灯(HMI・蛍光灯)とLED照明、それぞれで安全とされるシャッター速度の一覧表
- 導入前12項目チェックリストとトラブルシューティング5種

次の現場で、同じ帯を出さないために
この関係を知らないまま本番に入ると、帯の原因を本番中に手探りで探すことになる。カメラを疑い、ケーブルを疑い、照明を疑い、最後にシャッター速度にたどり着くまでの時間は、そのまま配信の空白になる。次の現場で同じ空白を作らないための数値を、このあとにまとめた。


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