深夜1時、翌朝の本番に向けてスタジオの配線をやり直していた。見栄えを整えようと、新品のCat6ケーブルを結束バンドで力任せに締め上げた。その直後だ。同じラックに通していたNDIソースの映像に、コマ落ちが混じり始めた。ケーブルは新品。スイッチも先週交換したばかり。機材のせいではない。なのに画が乱れる——本当の原因にたどり着いたのは、翌週、別の現場でまったく同じ症状に出くわしてからだった。

LANケーブルの中には、+と-、2本の線が対になって撚り合わされているツイストペアだ。この「撚り」こそが、外来ノイズを打ち消す仕組みの核心だ。撚りが規則正しく保たれている限り、対線はノイズに対して驚くほど頑丈にふるまう。ところが結束バンドで締め付けたり、無理な角度で曲げたりすると、対線どうしの距離がわずかに崩れる。コンマ数ミリ単位の歪みでも、高速通信の世界では致命傷になり得る。伝送規格が100MHz(Cat5e)から250MHz(Cat6)、500MHz(Cat6A)へと高周波化するにつれて、この「わずかな歪み」に対する許容量はむしろ狭くなっていく。
差動信号というのは、常に逆を向いて手をつなぎ、位置を交換し続けながら歩く二人組のようなものだと考えるとわかりやすい。外からどれだけ強い風、つまりノイズが吹いても、二人は同じ量だけ同じ方向に押される。だから二人の「差」だけを見れば、風の影響はきれいに消えている計算になる。問題が起きるのは、この二人組の歩幅が崩れたときだ。歩幅の乱れは、配線ミスでも機材の欠陥でもない。ただ、物理的な距離が崩れた。それだけのことである。

では、その「歩幅の崩れ」を現場でどう見抜き、どう防ぐのか。答えは、ツイストペアの物理構造と、PoE給電の仕組み、そしてシールド設計——この三つが交差する場所にある。ここを理解すれば、次にケーブルを手に取ったときの扱い方が変わるはずだ。

有料部では、次を扱う。
- 対線間の距離のずれが、どこまでなら許容されるのかという物理的な考え方
- PoE給電時に電流の偏りが起きるメカニズムと、それがビットエラーへと変わっていく経路
- シールド構造の国際規格分類(U/UTPからS/FTPまで)と、現場での選び方
- グラウンド処理を誤ったシールドケーブルが「アンテナ化」してしまう仕組み
配線を素手で触るすべての人間に、判断の軸を渡したい。

この構造を知らないまま配線を続けると、原因不明のフレームドロップやNDI消失に、現場が変わるたびゼロから向き合うことになる。次の現場で同じ時間を溶かさないための知識を、この先に書いた。


コメント