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電源は戻った。なのに、映像だけが戻ってこない
イベント二日目の朝を思い浮かべてほしい。前夜、会場側の設備点検で一度だけ停電が入った。朝、分電盤が復旧しているのを確かめ、機材の電源を端から入れていく。電源ランプは全部点いた。ところが、スイッチャーの画面にカメラのソースが一つも並ばない。

ケーブルを抜き差しし、再起動し、もう一度抜き差しする。三周目に入るころには、何を疑っているのか自分でも分からなくなっている。経験した人もいるだろう。
故障を疑う前に、「起きる順番」を確かめる
IP伝送の機材は、電源が入った瞬間から仕事ができるわけではない。ほかの機材が用意してくれるものを待っている。その待ち時間は、規格や公式文書に数字で書かれている。

- 住所が届かない: NDI認定機器の指針は、電源投入から30秒たってもDHCP(住所を配る係)から応答がなければ、フェイルセーフ用のアドレスを使うと定めている(NDI Docs「Interoperability Requirements」。NDIは米国のNewTek社が起こした仕様)。
- 問い合わせ役が空席になる: マルチキャスト映像の購読を管理する「問い合わせ役(クエリア)」が落ちると、別の機器が引き継ぐまで最長255秒、つまり4分15秒かかる。計算は 2(ロバストネス)×125秒(問い合わせ間隔)+10秒(応答待ち)÷2=255秒(RFC 3376 §8.5。IETFが定める国際標準)。
- 時計の親機を見失う: IEEE 1588(米国IEEEの規格)の既定値では、時刻合わせの親機からの知らせが2秒間隔、途絶えを判断するまで3回分で、2秒×3=6秒(Meinberg社の解説記事、2014年)。
30秒、255秒、6秒。待ち時間の単位がそれぞれ違う機材が、同じ瞬間に電源を入れられる。

あなたが悪いのではない。順番を教わる場所がなかっただけだ
ビルの朝の開錠を考えてほしい。管理室が先に起きて、館内の時計を合わせ、入館者名簿を用意する。テナントが入るのはそのあとだ。名簿ができる前に全員が一斉になだれ込めば、誰がどの部屋の人なのか分からなくなる。
IP映像の機材も同じ構造をしている。名簿係、時計係、道案内係が整う前に全員が動き出すと、お互いを見つけられない。電源ボタンを押す順番を整理した資料は、メーカーの説明書にも、規格書にも、一冊にまとまっていない。
方法はある
機材を起こす順番と、「次へ進んでよい」という合図を、一枚の表にしておく。それだけで、復旧作業は手探りから確認作業に変わる。疑う場所は4か所に絞れる。
この記事で手に入るもの
- 機材を4つの層に分ける考え方と、層ごとの「次へ進んでよい合図」
- 機材の起動時間の測り方と、待ち時間を決める計算式
- 停電復旧の手順カード(A4一枚)の書き方
- 復旧後に使える合格判定チェックシート
- 症状から原因の層をたどる早見表と、見落とされやすい3つのトラブルの正解

順番を決めずに復旧すると、問い合わせ役の交代待ちだけで最長255秒、同じ画面を見つめることになる。その間に疑う場所が増え、切り分けはさらに遠回りになる。次の復旧では、疑う場所を最初から4か所に絞っておこう。この先は、有料部分に書いた。


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