発電機を2台並べた現場で、電気の乗り換えに標準的なスイッチ(ATS)を使うと、切り替えのたびに60〜200ミリ秒の空白ができる。
IT機器が停電に耐えられる時間の目安は、20ミリ秒だ。
差は3〜10倍。計算は単純で、60÷20=3、200÷20=10である。
スイッチャーも、配信用のPCも、収録用のストレージも、20ミリ秒を超えた時点で「止まらない」という保証がなくなる。(この20ミリ秒は米国の120V/60Hz系統を前提にした目安だ。日本の100V系統にそのまま当てはまる保証はないので、機材ごとの仕様書で確かめる必要がある)

では、全部の回路を無停電電源装置(UPS)で守れば済むのか。済まない。UPSは入ってきた電気をいったん作り直して送り続ける装置で、その途中で電力の4〜8%が熱になる(調査資料の目安値。機種と負荷率で変わるため、導入時は製品仕様書の値で再計算する)。負荷100kWの設備なら、常時4〜8kWが熱に変わる計算だ。1年は8,760時間だから、4kW×8,760時間=35,040kWh、8kW×8,760時間=70,080kWh。この熱を部屋から追い出す空調の電力は、まだ含まれていない。
切替が遅いスイッチも、全回路をUPSで固める設計も、行き止まりに通じている。あなたの機材選びが悪いわけではない。乗り換えを1か所に集めて、そこだけで全部を解こうとする設計に、最初から無理がある。

駅で考えてみてほしい。10本ある通路のうち、急ぐ客が通るのは1本だけ。それなのに10本すべてに動く歩道を敷けば、客のいない9本でも歩道は朝から晩まで回り続け、電気を使う。かといって歩道をゼロにすれば、急ぐ客は間に合わない。

方法はある。乗り換えの「場所」を分け、場所ごとに別の切替方式を割り当てる。発電機が2台でも3台でも、太陽光や蓄電池が加わっても、考え方は変わらない。具体的な分け方と数値は、この先の有料部にすべて書いた。
この記事で手に入るもの。
- 切替方式ごとの空白時間(ミリ秒)と、機材が耐える時間を突き合わせる判定表
- 負荷を3つに仕分ける基準
- 発電機2台を同期させる条件の数値と、位相が合う瞬間が0.56秒しか続かない理由
- 現場でありがちなミス3つと、見落とされやすいトラブル2つ
- 切替器の点検中も給電を続けるバイパスの組み方
- そのまま配線図に落とせる7ステップの設計手順

45年の現場で積み上げた判断軸を、読み終えるまでの時間で受け取ってほしい。次の現場の配線図を開く前に。
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